副作用との闘い
治療が始まると、早速抗がん剤の洗礼を受けた。オキサリプラチンの影響で、手足のしびれが出始める。手足症候群で冷たい金属に触れると、末梢神経障害の苦痛で顔が歪む。だが、こんなものは序の口だ。
倦怠感、吐き気、食欲不振──これも織り込み済み。僕は食事管理に徹底的にこだわった。高タンパク、低糖質、抗酸化作用のある食品を選ぶ。クルクミン、ケルセチン、レスベラトロール……がん細胞の増殖を抑える可能性がある成分は、積極的に摂取した。
だが、抗がん剤にはもう一つ、厄介な副作用がある。精神的なダメージだ。体が弱ると、心も引きずられる。「なぜ、僕がこんな目に?」そんな考えが頭をよぎることもあった。
がんが見つかった時、妻も大変驚いた。退職以降、僕は東京と京都の2カ所を行き来する自由な生活を送っていたから、身体への負担が溜まっていたのではないかと、妻は自分を責めた。2年前に京都で腹膜炎を起こして救急車で運ばれたことがあったが、それが悪化した要因の一つになったかもしれない。コロナ禍も影響し、予後が悪くなってしまった。確かに京都での生活は遊びや仕事で羽目を外していたが、それは全て僕の自己責任で、妻には何の落ち度もなかった。
だが、僕はすぐに切り替えた。「戦場で泣き言を言う奴は、生き残れない」僕の中のがんファイターが、そう囁いた。
最後の放浪の旅へ
生きるか、死ぬか。どちらに転んでも、僕の人生に悔いはない。
これまでやりたいことは全部やってきた。レアメタルの山師として世界を渡り歩き、金の匂いのする場所には必ず顔を出した。アフリカの砂漠でも、中南米のジャングルでも、ビジネスの匂いを嗅ぎつけ、勝負を仕掛けてきた。
そして今、僕の最後の勝負の舞台は、医療の最前線になった。だが、これは決して悲壮な戦いではない。この状況すら楽しんでやるつもりだ。可愛い9人の孫たちよ、これが僕の生き様だ。最後の最後まで、僕は闘い続ける。
そして、もしこの闘いに敗れたなら──それはそれで、次の旅の始まりだ。冥土の放浪の旅へ。僕は、また新たな世界を見に行くだけのことだ。
このがんファイターの物語は、僕の人生そのものだ。商社マンから資源の山師に。そして今、最後の大勝負を医療の最前線で挑んでいる。確かに、がんとの戦いは容易ではない。しびれ、倦怠感、妻の心配など、障害は山ほどある。
だが僕は、これまで築いた人脈と経験を最大限に活かして、自分のやり方で戦うつもりだ。最先端の治療法を動員し、強力な味方となる医師たちと協力しながら、僕なりの戦略を練っている。
何より大切なのは、心の強さだ。これまで数多くの危険な状況を生き抜いてきたこの僕が、この闘いも人生の一環に過ぎないと考える。
生きるか、死ぬか──どちらになっても、決して悔いを残さない。可愛い孫たちに、最後まで自分らしく生きた姿を見せるつもりだ。
次回につづく