2025年4月17日(木)

田部康喜のTV読本

2025年3月2日

 清美が職場から自転車で帰宅中にトラックに跳ね飛ばされる。一瞬の間があって、彼女の身体になんのけがもなく、自転車も壊れない状態のまま着地している。

 事故の結果に心配してトラックを降りた運転手はほっとした表情になる。清美は怪訝(けげん)な顔になる。

 事故現場の片隅の植え込みのなかに、清美の同僚の高橋孝介(角田晃広)が隠れるようにして立っていた。

 清美は、自分を間一髪で救ってくれたのは高橋(角田)ではないか、と推測して彼を問い詰める。その答えは驚くべきものだった。

 「誰にもいったら困るんだけど。実は僕は宇宙人なんだ。地球人の母と宇宙人の父のハーフなんだけどね」

 交通事故に遭遇した清美を高橋は、高速移動と重いモノを持つことができる能力を使って救ったというのである。

角田晃広演じる高橋は高速移動をはじめ特殊な能力で人々を助ける

 自分が宇宙人であることを証明するために、10円玉を親指と人差し指だけでふたつに折り曲げて見せる。

 高橋役の角田は『大豆田とわ子と三人の元夫』(2021年、関西テレビ制作・フジテレビ系、脚本・坂元裕二)の中で、松たか子演じる大豆田とわ子の元夫のひとりとして達者な演技力を発揮した。ロマンチック・コメディと銘打った作品のなかの俳優として、彼もまたバカリズム作品に合っている。

「秘密」が徐々に広がるバカリズムの脚本

 バカリズム作品の魅力のひとつの核となっているのは、「秘密」がふたりだけだったのが、徐々に広がっていくおかしみにある。バカリズム自身もOL役を演じた『架空OL日記』(2017年、読売テレビ制作・日本テレビ系)や、生き代わりで人生を幾度も繰り返す『ブラッシュアップライフ』(2023年、日本テレビ)。映画では永野芽衣がOLのヒロインを演じて、企業ごとのOL集団の抗争と最強のOLを決める闘いを描いた『地獄の花園』(2021年、関和亮監督)がある。

 清美は、中学校の同窓である小学校教諭・葉月(鈴木杏)と看護師・美波(平岩紙)に食事会の際に「ふたりだけだからね」と、高橋(角田)が宇宙人であり、自分が交通事故から救われた話をする。

高橋の「秘密」は清美の友人を中心に少しずつ広がっていく

 葉月は、小学校の体育館の天井の骨組みにバレーボールがはさまって取れなくなっているのを、高橋に取ってもらえないか、と清美に頼む。高橋は清美の友人たちが信用できるかどうか、確認したうえで清美も含めて4人で会う。そして、バレーボールを取り除くことを引き受ける。体育館に深夜しのびこんで、天井までジャンプして取った。


新着記事

»もっと見る