2025年3月26日(水)

教養としての中東情勢

2025年3月11日

 イスラエルはもう1つの自治区であるヨルダン川西岸でも大規模攻撃を続け、ここ20年で初めて戦車も投入した。これまでにパレスチナ住民55人が死亡、約4万人が難民化した。

 国連によると、「2000年代初めのインティファーダ(反イスラエル闘争)以降、最長の作戦」だ。背景には「ガザの停戦に不満を持つ極右政党をなだめるため」という首相の思惑があるとされる。

「血の海辺」で乾杯

 ネタニヤフ首相の強硬姿勢を支えているのが米国のトランプ大統領から強力な後押し受けている、という自信だ。首相は大統領の「ガザ所有」提案には当初こそ戸惑いを見せたが、今は全面的に賛同。世論調査によると、イスラエル国民の8割以上が提案を支持している。

 当のトランプ大統領は先月末、自身のSNSに生成人工知能(AI)を用いたとみられる映像を投稿した。廃墟と化した街に高層ビルが立ち並び、海辺は「中東のリビエラ」風に様変わり。札束の舞う大通りには黄金のトランプ氏の巨像や実業家イーロン・マスク氏も登場、プールサイドではトランプ氏とネタニヤフ首相のくつろぐ姿も映し出された。

 ガザではパレスチナ住民4万8000人以上が犠牲になっており、この無神経な映像に対する批判が世界中から湧き上がったが、大統領は意に介していない。しかし、この映像を皮肉った何本かのAI動画が拡散しているのを知っているのだろうか。

 動画の1つでは、海パン姿の大統領とネタニヤフ氏が砂浜で乾杯しているところが映っているが、海の色は血のように真っ赤だ。明らかに多数の血が流れた場所を暗示するものだろう。その不気味な海を背にマスク氏が玩具のロケットで遊ぶ様子も見える。

 動画が出回る中、大統領はこのほど、ハマスに対し人質全員の解放をあらためて要求。「解放しなければ地獄を見る」と警告した。

 だが一方で「テロリストとは交渉しない」という米国の原則を破り、ハマスとの直接交渉に踏み切った。ボーラー人質問題大統領特使がカタールでハマス幹部と接触したのだ。これを知ったイスラエルが激怒、両国にすきま風が吹いたと報じられている。

“究極の選択”に直面したアラブ諸国

 トランプ大統領の「ガザ所有」提案に対応を迫られているのが220万人のパレスチナ住民の移住先と名指しされたヨルダンやエジプトなどのアラブ諸国だ。大統領は両国に対し、住民受け入れを拒否すれば、援助を見合わせる可能性を示唆して圧力を掛けている。

 ヨルダンは米国から年間16億5000万ドル(約2500億円)、エジプトも14億3600万ドルの援助を受け取っており、重要な収入源だ。それでも、大量のパレスチナ人の受け入れは両国にとって人口構成比や安全保障面で承服しかねるものだ。ヨルダンは難民も含め人口の70%がパレスチナ人であり、これ以上のパレスチナ人の流入は同国を一段と不安定にさせかねない。


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