ガザと境界を接するエジプトは元々、過激派ムスリム同胞団を源流とするハマスとの関係は悪い。パレスチナ人を受け入れれば、ハマスがシナイ半島の過激派と合流して治安が悪化。シシ独裁体制にとって大きな脅威となってしまう。
うち震える両国が泣きついたのはトランプ大統領とパイプを持つアラブの太守サウジアラビアのムハンマド皇太子だ。皇太子は2月21日、エジプトのシシ大統領、ヨルダンのアブドラ国王とペルシャ湾岸諸国の指導者らをリヤドに招集して緊急会合を開催、トランプ提案に対する基本方針を根回しした。
「2人のムハンマド」が欠席
これを受けて、シシ大統領は3月4日、カイロで緊急アラブ首脳会議を開催、トランプ提案の対案が採択された。トランプ提案が「住民の移住」を前提にしていたのに対し、アラブ側の対案は「住民をガザに残したままの復興」としており、この点が最大の違いだ。
だが、ハマスの武装解除や復興費用530億ドル(約7兆9000億円)の出所、ガザの統治問題など重要な課題に応えておらず、「絵に描いた餅」だ。パレスチナ人の強制移住には反対の姿勢を見せてアラブの同胞の連帯を示そうとしたものの、実際には自分たちに火の粉が降りかからないよう体裁を整えただけだ。
しかも「ガザの停戦合意に役割を果たしたとしてトランプ大統領をたたえたのは“ブラックジョーク”でしかない」(中東専門家)。首脳会議にはキーパーソンであるサウジのムハンマド皇太子とアラブ首長国連邦(UAE)のムハンマド大統領は姿を見せなかった。「2人のムハンマド」の欠席がアラブ諸国の不実ぶりを如実に物語っている。