実家を解体した人
故郷を去らざるを得ない、決断を迫られた人々もいる。浪江町津島地区――
原発事故によって、政府から「避難指示区域」に指定されるほど、放射能汚染が厳しかった。この地区に住んでいた住民600人以上が、国に対して地区の全域の除染を求める訴訟を起こしている。
「避難指示区域」が解除されて、荒れ果てた実家を解体する政府の補助金は1年以内に決断しなければならない。訴訟団の人数は約100人も減った。
三瓶春江さんは、4世代10人の家族でこの地区に住んでいた。実家は避難している間に野生動物に荒らされて、見る影もない。この間に義父の陸さんが亡くなった。
実家を解体すべきか、残すべきか。その判断を相談しようと、長崎大学・原爆後障害医療研所のジャック・ロシャール教授を地区に招いて、現状を視察してもらった。ロシャール教授は、チェルノブイリ原発事故でも放射能汚染の患者らを診た。
ロシャール教授は、三瓶さんに語り掛ける。
「放射能についはいろいろの意見がある。リスクがあるというものや、低レベルなら大丈夫だというものもある」
「(被災地に)戻るのか、離れるのか。よく聞かれる。その答えは、あなたが決めるしかない」
三瓶さんは、義母のミサ子さんと相談のうえ、実家を解体することを決めた。
解体する1月の当日、作業員の許しを受けながら実家に近づいては写真を撮り続けた。そして、子や孫が身長をマジックインキで印をつけた、柱を残してもらって持ち帰るのだった。
忘れないために
NHKにお願いしたい。「東日本大震災アーカイブス」は、震災の状況と情報が現状でも使いやすくなっている。情報が過剰になるとそれが難しくなるのは避けがたい。そのことをわかりながらも、原発事故などのNHKスペシャルの過去の番組なども見られるようにできないものだろうか。
人は忘れやすい動物である。しかも、震災を経験しない世代がこれからも多くなってくる。