うめきた・大淀にある「CRAFT BEER BASE」の醸造所。代表の谷和さん(47歳)は、都会のど真ん中でビールを造る理由をこう語る。
「ドイツやベルギーでは、町の人たちのためにビールを造るという文化があり、それは外から人が集まる動機にもなります。私が『この町の人たちのために造る』という思いを強くしたのが、2019年、クラフトビールの醸造販売を始めた直後に起きたコロナ禍がきっかけでした。飲食店でビールを飲みたいのに飲めない近所の人たちが訪問し、多くの人が私たちのビールに感動してくれたんです。ビールは、この地域に暮らす人々の記憶になる。地元を感じることができるモノの一つになると確信し、以来、『円』を小さくして活動することを大切にしています」

CRAFT BEER BASE代表取締役社長
1977年香川県生まれ。2012年、クラフトビールに特化した酒屋兼ビアカフェ「CRAFT BEER BASE」を開業する。醸造所のある「CRAFT BEER BASE MOTHER TREE」(写真の背景)では、見学ツアーも行っている(写真:生津勝隆以下同)
円を小さくするというのは、活動自体を小さくするということではない。谷さんはあくまでもこの地にこだわり、大阪、特にうめきた地域(大淀)で「世界一のビールフェス」を開催することも計画している。
「私たちが造るクラフトビールは、料理との相性の良さを追求し、麦芽の一部を『麹』に置き換えたクラフトビール造りにもチャレンジしています。クラフトビールは、ビールそのものを味わうことが一般的ですが、食べながら飲んで美味しいクラフトビールを造ることで独自性を出すことができると思います」
24年にはグラングリーン大阪にビールに合わせたフードを提案する新店舗「leaf」をオープン。小さな円で地道な活動を続ける。
「ビアカフェで働き始めた新人時代、ビールの研究でベルギーに自腹で行き、有名な『Duvel』(デュベル)に出会いました。その醸造所で教えられたことは、『いくら良いビールを造っても、最後、注ぐところがきちんとしてくれないと、美味しいビールにならない』ということ。帰国後は、ひたすらデュベルの注ぎ方を練習しました」
そんな谷さんは、結婚、出産を経て、仕事から離れざるを得なくなった。「それでもやっぱり、ビールの仕事がしたい」と思った谷さんは、自宅から徒歩数分の場所に卸酒店があることを知り、職を得た。