2025年12月6日(土)

Wedge REPORT

2025年8月6日

 80年周期は「制度的サイクル」と呼ぶ。第1が合衆国憲法公布から南北戦争終結まで(1787~1865年)。第2が第二次世界大戦終結まで(1865~1945年)。第3が現在まで、つまり、戦後80年の今年だ。この「社会経済的サイクル」と「制度的サイクル」が、ほぼ同時に終結しようとしている。

 では、第6のサイクルを主導するテクノロジーは何か? それこそ「AI」「バイオテクノロジー」「量子」だ。この3つのテクノロジーを支える基盤こそ、半導体なのだ。先端半導体のコンピューテーション技術(計算能力)こそが、これらのテクノロジーの成否を左右する。

 半導体業界では、トランジスタの構造が大きく変わる潮目にある。これまでの半導体は「プレーナー(平面)構造」での微細化を進めて、2年で2倍の性能を向上させる「ムーアの法則」を実現させてきた。ただ、このプレーナー構造による微細化に限界が見えてきた中で、2010年代に「FinFET(フィンフェット)構造」という立体型に進化することで、ムーアの法則を維持してきた。

 しかし、微細化が進むにつれてFinFET構造にも性能に陰りが見え始め、今度は「GAA(ゲート・オール・アラウンド)構造」という全く新しいものになろうとしている。GAAはFinFET構造よりもさらに複雑な技術が要求されるが、この「GAA2ナノ・メートル(1ナノは10億分の1メートル)」の試作を成功させたのがIBMだ。

 このような「前工程」に対して、「後工程」でも技術革新が起きようとしている。「異種チップ集積(ヘテロジニアスインテグレーション)」という最先端半導体と旧世代半導体を貼り合わせる「チップレット集積」や、「2・5D/3Dパッケージング」と呼ばれる技術だ。

 実は、GAAや3Dパッケージング技術の量産は本格化していない。つまり、新旧のプレーヤーが同じスタートラインに立っている。だからこそ、後発組による「リープフロッグ」も可能になる。このためチャレンジャー(としての日本)は、この潮目の変化を使わないわけにはいかない。それが今の2ナノ半導体に象徴的な形で表れている。

これまでとは変わった
政府支援のあり方

 ラピダスに対して国はすでに9200億円の補助金を投じ、今後、半導体関連の支援に10兆円が拠出される予定だ。

 「またか」「税金の無駄遣いだ」「国が資金を出すプロジェクトはうまくいかない」─。そうした批判の声があることは承知している。事実、私自身もこれまでは、民間の事業に政府が支援することに対して、必ずしも肯定的ではなかった。エルピーダメモリなど政府がこれまで支援したプロジェクトの結果を見ればそう思うのも無理はない。

 しかし今回は、政府がまず先に一歩踏み出して、民間投資を引きつける形になり、これまでのスタンスとは明らかに異なる。それは日本の目指す科学技術立国の再興につながるだろう。コンピューター、グリーン、バイオなど、経済安全保障の観点からも重要ということになる。

 先端半導体の製造で、電力消費量の増加を懸念する声がある。ただ、こうした課題は、イノベーションが起きる好機にもなる。私が注目しているのは商船三井が実用化した液化天然ガス(LNG)を使って発電する船だ。この電力船を使えば、トランジションエネルギーとして、電力の安定供給の一助となろう。

 人材の確保に向けた動きも始まっている。例えば、ラピダスは外国企業に出て行った人材を日本に呼び戻している。台湾の半導体受託製造の台湾積体電路製造(TSMC)が進出した熊本の場合は、九州全体で工業高等専門学校(高専)も含めて半導体関連の人材育成を進めている。

 量子技術では東京大学に入学した物理専攻の学生の中から選抜して、量子コンピューターを使わせるようにして、学生など若い世代に先端技術を使える機会を与えている。人材育成には時間が必要だが、その支援は、我々シニアの役目だ。


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