昨年の総選挙、6月末の東京都議選で議席を大きく伸ばした国民民主党の玉木雄一郎代表は、「現役世代から豊かになろう」と主張、やはり控除額の178万円への引き上げなど、公約「手取りを増やす夏」を繰り返した。
「物価高だけに矮小化するな」と叫び、おやと思わせたれいわ新選組の山本太郎代表も、その主張は消費税廃止、給付金10万円と、額の違いを除けば、他党と大同小異だった。
個別政策の方法論は争点になじまぬ
物価高対策、社会保障の重要性はいうまでもない。与野党、国民の認識も一致している。いま問題になっているのは、減税か給付金か――など、いわば実現に向けた方法論だ。
それだけなら、選挙で声高に争って無用な対決色を強めるより、国会で与野党が真摯に話し合う方が、まだしも生産的な議論、有益な結論を期待できよう。
先の通常国会では、合意、物別れはあったにせよ、25年度予算案はじめ重要政策で与野党の折衝が重ねられた。その実績を考えれば、現実味のある手段というべきだろう。
石破首相は6月29日、民間の政策提言組織「令和国民会議」(令和臨調)の会合で、「党派を超えて」社会保障のあり方を検討するため与野党協議の枠組み設置を提唱した。立憲民主党の野田代表も「拒むべきものではない」と前向きな姿勢を見せているのだから、参院選後の臨時国会で協議を開始し、税制そのほかに論点を広げていけくのも一方だろう。
スケールの大きい政策が示されるのではないかと期待を抱かせる瞬間もなくはなかった。横暴な関税措置をめぐり、アメリカと今後どう向き合うかについて各党首が聞かれた時もそのひとつだった。
「一国に頼りすぎる貿易のありかたは変えていく時期だ」(日本維新の会、吉村洋文代表)、「アメリカは日本を同盟国とみていない」(日本保守党、百田尚樹代表)など日米関係への危機感が披歴され、野田代表も米国との2国間ではなく、欧州連合(EU)を含む多国間協議を通じての自由貿易の維持を主張した(7月6日のNHK「日曜討論」)。
同盟を未来永劫、維持するのか、基軸外交の転換もありうるのか、など対米関係の根本にわたる議論に発展していくかにもみえたが、石破首相は「いうべきことはいう。防衛費はわが国の判断で決めていく」「多国間と2国間協議を同時に進める」などにとどまり、それ以上議論が展開することはなかった。
自ら進路を示さず「中東問題で日本は何ができるか」(自民党の政見放送での石破首相)など、問いかけるだけでは主張が伝わらないだろう。
メディアも同じ土俵に
新聞各紙は今回の選挙にあたって、いずれも将来の国家像など大きなテーマによる活発な政策論争を求めている。
「多難な時代をどう乗り超える―政権選択になりうる重い機会だ」(読売、7月3日社説)、「政権選択にも資する国家像を明確に示せ」(日経、7月4日社説)などだ。
しかし、論点はいずれも与野党の主張に沿った各論にとどまり、内政、外交でのあるべき姿を提示しろという主張は申し訳程度に数行触れられただけだった。メディア自身、与野党と同じ土俵に乗ってしまったようだ。
わずかに産経新聞が、「日本の針路を示す論戦を―国際情勢から目を背けるな」(7月4日づけ「主張」)との見出しで、ウクライナ、台湾、朝鮮半島情勢などでの活発な論争を促したのが目立った。
「安保・外交は票にならない」とは長年の言い伝えだが、内政での具体論一本やりでは、あまりに不十分だろう。
