2025年12月6日(土)

未来を拓く貧困対策

2025年7月10日

情報公開・個人情報保護審査会の最終判断

 これに対して、情報公開・個人情報保護審査会では、15年3月27日付で厚労相に答申書を交付している。答申書の内容は、厚労相の不開示決定を取り消し、全部開示の決定を求めるものであった。

 まず、「世帯類型ごとの基準額」に関する判断をみていこう。

 本件不開示部分に記載された「世帯類型ごとの基準額」は、世帯類型ごとの全国の基準額の平均額であり、厚生労働省が平成25年度予算で決定した世帯類型ごとの都市部・町村部別の基準額とは、異なる資産額であるとのことである。
 また、本件対象文書の見分結果によれば、本件不開示部分に記載された「世帯類型ごとの基準額」は、主要な世帯類型の基準額を都市部・町村部の別なく合算した平均額として、記載されたものと推認される。
 そうすると、平成25年度予算で決定した全ての世帯類型ごとの都市部・町村部別の基準額と、世耕弘成内閣官房長官への説明時における主要な世帯類型ごとの全国の基準額の平均額とは、そもそも比較しがたいものであり、後者の本件不開示部分を公にすることによって、国民に誤解を与えるなど、不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれがあるとは認められない。
 したがって、当該部分は、法5条5号には該当せず、開示すべきである。
出所:異議申し立て決定書(平成27年5月22日付)、本田氏から提供

 次に、「生活保護基準の見直しによる財政効果」に関する判断をみていこう。

 原処分時(平成25年9月13日)において、平成25年度予算は既に成立しており、執行中であったものである。
 そうすると、本件不開示部分を公にしたとしても、世耕弘成内閣官房副長官への説明時における平成25年度予算要求予定額と、その後の同25年5月15日に成立した同25年度予算額との差額、並びに同26年度及び同27年度の予算要求予定額が明らかになるのみであり、そのことによって、国民に誤解を与えるなど、不当に国民の間に困難を生じさせるおそれがあるとは認められない。
 したがって、当該部分は、法5条5号には該当せず、開示すべきである。
出所:異議申し立て決定書(平成27年5月22日付)、本田氏から提供

 要するに、「示されている数値自体はあくまでシミュレーションに過ぎないのだから、開示することで誤解や混乱を生じさせるおそれはない」「もう成立した予算の積算資料に過ぎない」ということである。

 生活保護基準部会の委員に知らせることなく、ゆがみ調整の2分の1処理をしたこと。そのことが公になれば、政府や行政の信頼が著しく失墜し、批判の的になるといったこと。こうしたことは、どこにも書かれていない。

なぜ基準部会にも国民にも秘匿する必要があったのか

 最後に、最高裁判決は戻ろう。宇賀氏は反対意見の中で「ゆがみ調整における2分の1処理」について、次のように述べている。

 基準部会の意見を聴取することは容易であったにもかかわらず、なぜそのような対応をしなかったのかについて、被上告人らは、政策的判断と述べるのみで、具体的理由を明らかにしていない。他方、平成25年報告書の取りまとめに先立ち行われた平成25年1月における厚生労働省担当者と内閣官房副長官との協議では、本件改定を行うことにより財政削減効果がある旨が記載されていたが、この文書は取扱厳重注意とされ、対外的には公にされず、行政文書開示請求を受けて開示されて、初めてその内容が明らかになった。多くの生活保護受給者に重大な影響を与える2分の1処理の必要性と根拠については、行政の説明責任があるはずであるにもかかわらず、なぜ、それを基準部会にも国民にも秘匿する必要があったのかについても、説得力ある説明はなされていない。
出所:生活保護基準引下げ処分取消等請求事件最高裁判決

 彼がどのような思いで判決文を起草したのか、その背景に思いを馳せざるを得ない。

 最高裁判決は、朝日訴訟がそうだったように、これから数多くの関連論文が発表され、歴史や公民の教科書に掲載されることになるだろう。その際、「国民の知る権利」を保障した情報公開制度の視点からも、必要な検証が行われ、教訓として活かされ、啓発が行われることを願う。

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