2025年12月5日(金)

唐鎌大輔の経済情勢を読む視点

2025年7月15日

 具体的に極左政党と呼ばれた五つ星運動(M5S)は反エスタブリッシュメントやベーシックインカムを唱え、極右政党と呼ばれた同盟(旧北部同盟)は反移民、反EU、イタリアファーストを唱え、共に民意を捉えていた。いずれの政党も単独過半数を得られなかったものの、「反体制(≒反EU)」という一致点を見出すことで連立政権樹立に至った。

 ちなみに15年9月にメルケル政権が独断で下した移民の無制限受け入れにより地中海経由で大量の移民受け入れを強いられたことも、同国における極端な政治主張を助長したと考えられる。当時、ドイツ以外の加盟国では「ドイツ≒鼻持ちならないEU」の象徴であったことも付言しておく必要はある。

 イタリアは極端な例としても、欧州債務危機の発端となったギリシャでも15年以降はトロイカ体制(EU・欧州中央銀行〈ECB〉・国際通貨基金〈IMF〉)が強いる緊縮政策への反発から急進左派連合(SYRIZA)が第一党となり、同じく反緊縮を掲げる「独立ギリシャ人」党(ANEL、右派)と連立していた。ギリシャのユーロ離脱を賭けた国民投票の是非などが大いに注目された政権である。

 両党の社会政策(例えば移民政策など)への考え方は必ずしも一致していなかったが、やはり「反体制(≒反EU)」の旗印の下で、連立が整理していた。実際、債務危機が終息し、トロイカ支配の制約も弱くなる中、ANELは離脱し、連立は崩壊に至っている。社会に「共通の敵」がいるからこそ、そうした政権は成立するのである。

 また、正式な連立関係にはないもののフランスでしばしば話題になるルペン党首が率いる極右政党・国民連合(RN)とメランション党首が率いる極左政党・不服従のフランス(LFI)はやはり反EU、反エスタブリッシュメントという点で主張を重ねているし、そもそも米国のトランプ政権の唱える反グローバリズムは民主党の主張と被る部分が多い。得てして、そのようにして生まれた政権は恵まれない支持者を念頭に置き、拡張財政路線や低金利継続を訴えやすい傾向にある。

取引材料となる国政選挙

 古今東西、金利上昇や通貨安、物価高などを受けて困窮した国民は各論での不一致には目を瞑り、とりあえず「反体制」を投票行動の判断基準に置きやすい。欧州ではそれが「EU」だったし、米国ではグローバリズムの権化である「東西両海岸のエリートたち」だった。社会にとって「共通の敵」が存在すれば、その敵を争点化した政党が支持を得やすくなる。

 今の日本にとって「共通の敵」とは何か。インフレ、外国人、金持ちといったところがキーワードになりそうであり、それはトランプ政権と酷似する。インバウンド需要の急膨張を経て「金持ちの外国人がインフレを招いている」というストーリーが世論に受け入れやすくなっている状況下(それは部分的に恐らく事実だが)、日本人ファーストを唱える参政党が無視できない存在になっていることは必然の帰結なのだろう。


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