2025年12月6日(土)

Wedge REPORT

2025年7月17日

 症状ごとに医者を変えるこの不便さ・不安は、決して珍しい話ではありません。事実、75歳以上の高齢者では約8割が2つ以上の慢性疾患を抱え、約6割が3つ以上を併存しているとの調査結果もあります。

 高齢者ほど多病傾向が強いのは当然として、現役世代でも年齢を重ねればいずれ複数の不調を抱えることは十分あり得ます。それでも今の日本の制度では、そのたびに別々の専門医を受診しなければなりません。

 「人」をまるごと診てくれる総合診療医が身近にいればどんなに助かるだろう、と感じる場面は多いのです。日本で総合診療医がここまで少ない背景には、医師の供給面と制度上の制約という二つの問題があります。

看板を掲げられない

 供給面から言えば、総合診療専門医は2018年に新設された比較的新しい専門分野ですが、育成数は年間200~300人です。欧米で一般的とされる「住民2000人に1人」の割合で家庭医が必要だとすると、日本では約6万人が必要な計算となり、このペースでは100年かかってもその半数にも届きません。

 もう一つの大きな問題が制度・慣習の壁です。日本では総合診療医が活躍しにくい土壌が長く続いてきました。

 専門医全盛の風潮もそうですが、決定的なのは「総合診療科」という看板を掲げられないという規制です。日本の法律では、病院やクリニックが院外標榜できる診療科名が厳格に定められています。医療法施行令第3条の2により「総合診療科」「家庭医療科」「かかりつけ医科」といった名称を院外に掲げることは認められていません。街中で「総合診療科」の看板を見かけないのはこのためです。

 この規制のため、患者側が総合診療医の存在を認識しづらい状況が生まれています。厚生労働省が提供する医療機関検索サイト「医療情報ネット(ナビイ)」でも、診療科目一覧に「総合診療科」がなく、チェック項目もないため、自分の不調を相談できる総合診療医を探そうにも検索すらできないのです。

 結果、患者は原因がはっきりしない体調不良に直面すると「何科に行けばいいのかわからない」状態に陥りがちです。筆者自身、まさに複数の不調を抱えて「どの医者にかかれば……」と悩みあちこち回った経験があり、この問題を痛感しています。


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