悪いのは全て環境のせい、不合格事例を自画自賛
「獲るものを変える」というアプローチばかりが重視されるのは、資源の減少に対する乱獲要因を軽視しているからである。北太平洋海域の水産資源の国際管理を行っている「北太平洋漁業委員会(NPFC)」の最新の資源評価によると、サンマは2000年代後半から漁獲圧が高すぎるという意味での乱獲状態が続き、資源量も同様に2000年代後半から「Bmsy」という望ましい水準を割り込んでいる。近年ようやく漁獲圧は乱獲水準よりぎりぎり低い水準に下がったものの、資源の量は望ましい水準よりも低いままである。
水産庁の関連機関である「水産研究・教育機構」(以下「水研機構」と略)の最新の資源評価によると、日本周辺に広く生息するスルメイカ(冬季発生系群)は、評価対象年のうちのほとんどで漁獲圧が高すぎるという意味での乱獲状態だったとされており、禁漁水準に近い状態にまで落ち込んでいる(サバについては後述)。こうした評価に関して水産白書はほとんど何も触れておらず、白書のこの部分だけ読むと、資源が悪化したのはひとえに温暖化など環境の変化であるようにも見えてしまう。
対外的にも、温暖化に全てを負わせるような姿勢は顕著だ。先日筆者も出席したNGO主催の「気候変動のもとでの資源管理と評価の在り方を考える」と題するワークショップの席上、水産庁の資源管理を担う部局の責任者は、漁獲が減っている原因は海水温の変化や海流などの海洋環境の変化だと強調し、資源管理自体は成功していると言わんばかり。挙句の果てに成功した事例として、日本海のスケトウダラ(日本海北部系群)を成功事例として自画自賛したのには、まさに開いた口が塞がらなかった。
この資源は長年科学勧告を無視した漁獲枠が設定され資源が激減し、ようやくこうした状況が是正され資源が上向いているものの、資源の不合格ラインである「限界管理基準値」を現在も割り込んでいる。今でも不合格点がついている答案を「成績優秀の事例だ」と自慢しているようなものである。
司会を務めた元水産庁OBから「水産庁の今の発表は非常に資源管理に楽観的だが、それでよいのか。例えば現在の管理で激減したサバは回復するのか、小型魚ばかり獲りまくっているではないか」との苦言が飛び出すほどであった。
こうしたアプローチとは対照的なのが、IPCCの報告書である。そこで強調されているのは、乱獲への対策と資源管理である。
IPCC第6次評価報告書では、温暖化による漁獲対象種の転換等も対策として挙げられている一方、「乱獲を排除する管理は、今後の気候変動に対する漁業の適応を促進する」(IPCC第2作業部会報告書第3章政策決定者向け要約)とし、持続可能な資源管理や海洋保護区の設定、生態系ベースの管理が有効であると指摘している(同報告書第3章3.6.3.1.2及び3.6.3.2.1)。温暖化が進む今こそ資源管理の強化が必要なのである。


