2025年12月5日(金)

日本の漁業 こうすれば復活できる

2025年8月5日

 ところが、水産庁の対応はこれとは全く逆、楽観的なシナリオに基づく最大の漁獲枠を誘導しようという態度に終始した。水研機構の科学者が「なぜそういった…試算をしなきゃいけないのかという、その目的が私としては理解できな(い)」「もう目的として何か選択肢が多い方がいいというようにしか聞こえな(い)」との声をあげたにもかかわらず、水産庁の責任者は、漁獲圧を大幅に高めるシナリオを計算するよう強く要請。この結果でてきたシナリオに基づき、マサバ8.7万トン、ゴマサバ5.2万トン、合計で13.9万トンのマサバ・ゴマサバ太平洋系群枠を出すよう議論を主導し、これが結論となった。

 上記の漁獲枠を導く漁獲圧でマサバを捕り続けると、親魚量がレッドラインの「限界管理基準値」を下回る可能性が28.7%と水研機構は推定している(水産庁「第4回資源管理方針に関する検討会の指摘事項について」5頁参照)。しかも、種が全く別のマサバとゴマサバを「マサバ及びゴマサバ太平洋系群」として一括管理し、マサバ分の8.7万トンとゴマサバ5.2万トンを足して、13.9万トンとの枠を設けている。

 このため、たとえばマサバが8.7万トンを超えて獲れたとしても、ゴマサバと一括された枠の13.9万トンに達しない限り、漁獲を制限するシステムにはなっていない。この点で、そもそも管理の仕組みとして失敗している。

 「研究者は資源評価しても、ただ多く獲れるシナリオが採択され(る)」との懸念の声が政府関係者からすら上がったという。国連公海漁業協定は予防的アプローチの適用に関し、資源管理にあたって「限界管理基準値を超過する危険性が極めて小さくなることを確保」しなければならないと定める(同協定附属書Ⅱ第5項)。この基準値を下回る可能性が3割近くもある漁獲管理は、到底予防的アプローチの趣旨に沿ったものとは言えない。予防的どころか、短期的な漁獲の最大化を目指す、「漁獲MAXアプローチ」と言ってもよいかもしれない。

大衆魚の枯渇は食料安全保障を棄損する

 漁獲量と資源量の減少は、温暖化など環境の変化に起因するところも多いであろう。ただ残念ながら、温暖化の流れを抑制することはできても、逆転させることはできない。したがって「魚が減ったのは温暖化のせい」として緩い管理を続ければ、その魚の資源量の減少を加速させるだけである。

 サバもそうだが、サンマも、イカも、かつては大衆魚であった様々な魚がますます獲れなくなりつつある。食料自給率が低い我が国にとって、魚が獲れなくことは、中長期的スパンで見るならば我が国の食料安全保障にも直結する。

 目先の利益のみに引きずられ、科学を軽視し漁獲を最大化しようとするアプローチは、賢明なものとは言い難い。予防的アプローチに即した、中長期的な漁業及び漁業資源の持続可能性を担保する政策が望まれる。

 何より、予防的アプローチは法により「しなければならないこと」として求められているという点に留意すべきであろう。

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