「教えない」マネジメントの広がり
この構造は企業やスポーツの現場にも共通する。指示待ちや、やる気の見えない若手の背景には、「教えてくれるはず」という依存がある。
「だからこそ、企業やスポーツでも『教えない』マネジメントが広がっています。大切なのは問いかけです。『君はどうしたい?』『なぜそう動いた?』と繰り返し問うことで、自分で考える習慣が身につく。これは多くの現場で成果を上げています」
この考え方は、山本先生の著書『「教えない」から学びが育つ』でも、各分野の実践者によって語られている。
たとえば青山学院大学陸上競技部監督の原晋さんは、「プロセスを無視して結果ばかり追い求めると、結局中身のない集団になってしまいます。負けた時には『何が足りなかったのか』を部員たちで検証します」と述べる。
工藤勇一さん(元横浜創英中学・高等学校校長)は、「大人が子どもにかけるべきなのは『どうしたの?』『君はどうしたいの?』『何か手伝えることはある?』という3つの言葉です」と語る。
また、木村泰子さん(大阪市立大空小学校初代校長)は、自身の子ども時代を振り返り、教員からのたった一言の問いかけに救われた体験を紹介。その経験から、子どもたちに問いを投げかけることがどれほど大きな影響を与えるかを強調している。
現場も分野も違えど、「教えない」ことを徹底し、「問いかけ」にシフトすることで、自ら考え、行動する力を育むという核は共通している。
「教えない教育」というと、保護者から「甘やかしでは?」「社会に出て通用しないのでは?」という声が出てくることもあるが、山本先生は言う。
「『教えない』ことは、決して放任でも無責任でもありません。むしろ『信じて待つ勇気』です。また、『答えは教えなくても、手段は教える』という姿勢が大切です。課題解決のためのプロセスや道筋を示しつつも、最終的な判断や選択は本人に委ねることが主体性を奪わない支援につながります。
そして何よりも大切なのが、子どもがどんな選択をしても味方であるという〈心理的安全性〉を与えること。『答えを出さない勇気』と『手段を示す支援』、『応援し続ける安心感』。この3つを組み合わせることが、子どもや部下の自律的な成長を後押しするカギになります」
