2025年12月5日(金)

オトナの教養 週末の一冊

2025年8月21日

 AIが瞬時に「答え」を出す時代、人間に求められる力とは何か──。横浜創英中学高等学校で「教えない授業」を実践し、そうした教育の意義を教育関係者やビジネス界をけん引している人たちとの対談を通じて描いた書籍『「教えない」から学びが育つ 子どもが自律する教育のミライ』を上梓した山本崇雄先生は「自分で目標を設定し、学び方を選び、行動できる力こそが、これからの時代に必要な〈軸〉」だと語る。

(cherdchai chawienghong/gettyimages)

 その理念は、教育にとどまらず、ビジネスやスポーツなどの組織マネジメントにも通じている。長年「教えない授業」を実践し、多くの生徒を育ててきた山本先生に、今なぜ「教えない」が必要なのか、その理念と実践、そして教育の未来について伺った。

AI時代に求められる「答え」ではなく「プロセス」

 「ChatGPTに学習モードが追加され、答えをすぐに提示せず、助言を重ねながら解決へと導けるようになりました。これまで教師が「人間にしかできない」と思っていた、学びを支える営みの一部さえも、AIが担い始めています。いよいよ、教育において人間ならではとされてきた領域が、AIによって置き換えられつつあるのです」と憂慮をにじませて語る。

山本崇雄 (やまもと・たかお)
横浜創英中学・高等学校副校長・日本パブリックリレーションズ学会理事長ほか。都立中高一貫教育校を経て、2019年より複数の学校及び団体・企業でも活動する二刀流(複業)教師。

 AIが瞬時に答えを出せる時代に、知識を暗記するだけの教育は限界を迎えている。

「だからこそ、これから必要なのは結果よりもプロセスを重視する教育です。自分で考え、手段を選び、決める経験──その積み重ねが、これからの社会で活きる力になります」(山本先生・以下同)

 掲げる「教えない授業」は、そのプロセスを中心に据える。答えを与えるのではなく、目標を立てさせ、自ら学び方を選ばせる。問いを立て、試し、失敗から学ぶ。

 教師は「学びの伴走者」として寄り添う。結果だけでなく、そこに至る道筋を自分の力で切り開く経験を子どもに積ませることが狙いだ。

 とはいえ、その実践には時間もエネルギーもかかる。

 「今の子どもたちは〈与えられること〉に慣れすぎています」と言う。

 小学校に入れば時間割も給食も同じ、放課後は習い事や塾。唯一の自由時間は夜のスマホや動画──。そんな生活を続けてきた子に「君はどうしたい?」と尋ねても、すぐには答えが出てこないのは当然だ。


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