加えて、沖縄全観光客の53%が宿泊する那覇地域に比べて観光露出の少ない北部地域を活性化する象徴的な存在として位置づけられる。特にジャングリア沖縄が位置する今帰仁村は、沖縄本島北部の「玄関口」とも言われ自然や文化を楽しめる観光スポットも多い名護市や、固有種がたくさんいる国頭、東、大宜味の「やんばる3村」、沖縄美ら海水族館を含む海洋博公園がある本部町などと比べ、あまり目立つ存在ではなかったと思われるが、北部のバランスが取れるようになったのではないか。
地域協調が生んだ渋滞の緩和
この総事業費約700億円という大規模プロジェクトは、エクイティ(出資)とデット(融資)をほぼ半々で構成するファイナンスで実現している。資金調達面では、沖縄の多様なプレイヤーが協調・連携する仕組みが構築されている。
エクイティ約350億円のうち、沖縄の地元企業・団体が約7割(約245億円)を負担している。具体的には、オリオンビール、リウボウ、ゆがふホールディングス(HD)といった沖縄を代表する企業が中心である。
筆頭株主は森岡毅氏率いるマーケティング会社の刀であり、大和証券グループから刀への140億円の出資、クールジャパン機構からの80億円の出資がプロジェクトの信用力を高めている。また、JTBや近鉄グループホールディングスなどの本土企業も出資している。
デット約366億円は、商工組合中央金庫と琉球銀行が主幹事となり、計13の金融機関が協調融資を形成している。沖縄銀行や鹿児島銀行などの地元銀行に加え、全国各地の地方銀行や沖縄振興開発金融公庫といった政府系公庫も参加しており、地域に根ざした資金調達と全国的な信頼が両立している。サステナビリティ・リンク・ローン(SLL)の活用など、環境や雇用への取り組みを金融面にも反映させており、持続可能性を重視する姿勢が見える。
運営面では、このプロジェクトのために設立されたジャパンエンターテイメントが主体となり、その戦略やマーケティングを刀が担う体制となっている。地元金融機関も融資だけでなく、地域連携や経済循環の観点から重要な役割を果たす。
こうした構造により、ジャングリア沖縄は地元企業や金融機関が中心となりつつ、全国的な資本や専門知識を持つ企業が連携する多層的な枠組みによって支えられている。これは沖縄の地域活性化に向けた新たな協調モデルといえる。
実はこの地域協調体制によって以下の4つの側面からジャングリア沖縄へのアクセス渋滞が避けられている。
①無料シャトルバスの運行:イオン琉球が主体となり、来訪客の移動を支援するために 無料のシャトルバスを運行。これにより、個別車両の流入を抑制し、道路の渋滞緩和に寄与。
②道路拡幅などインフラ強化:県や国との協調のもと、周辺道路の拡幅工事や右折帯の新設などを含む、交差点が改良。中・南部から北部へアクセスしやすくするための道路整備も進行中。
③多様な交通手段の整備:ジャパンエンターテイメントがジャングリアエクスプレス(空港・市内直通バス)という那覇空港や那覇市内、オフィシャルホテルなどからの直通バスを複数便運行し、利便性を確保。パーク外駐車に複数の提携駐車場を確保し、そこから大型バスによる来園者の輸送を計画。パーク内部への乗用車集中を避け、交通混雑の緩和に貢献。
④パーク側では、事前予約状況や公共交通機関の利用予測を踏まえ、混雑が予想される日は入場制限を設けるなど、来場者分散を促す対応をとった。
紆余曲折を経ることで発展を
一方で、ジャングリア沖縄の成功に向けては課題もある。プロモーションで伝えられた期待値と実体験の差があるという評判、悪天候への対応、持続的なアトラクションやサービスの改善である。沖縄本島北部の周辺宿泊施設の不足、観光客の消費が地域全体に波及しない懸念もある。
