ドゥテルテ家の再起に伴う「王朝」間の紛争によりマルコス政権の後半が混乱する可能性がある。サラは議会で支持者を伸ばしており、(憲法上)再選できないマルコス大統領を妨害するかもしれない。結果として大統領がレームダック化する可能性もある。
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フィリピンに何が起きていたか
この記事はここ数カ月のフィリピンの内政状況の変化を説明し、ドゥテルテ家が復活すると共に、今後マルコス家との確執がさらに強まり、時期大統領選挙までの3年間は両家の泥試合が続き、結果として国家にダメージを与えると共にマルコス大統領がレームダック化する可能性があるとの悲観的な見通しを述べている。
まずサラ・ドゥテルテ副大統領の弾劾手続きであるが、今年2月に下院で弾劾訴追が決議され、上院に送付された。その後の世論調査では「サラ副大統領は弾劾裁判に真摯に対応し、自分の汚名を晴らすべき」と答えた割合が全体の88%を占めるなど、サラ副大統領に対する風当たりはかなり強いものとみられた(ソーシャル・ウェザー・ステーション調査)。
他方5月の中間選挙の結果によっては7月下旬に開催される議会構成も変わってくることから、エスクデロ上院議長(弾劾裁判所裁判長)としても直ちに本格的な弾劾手続きを進められる状況になく、結局下院に対し、憲法の弾劾開始要件を満たしていることの証明と次期会期で弾劾訴追を継続する意思決定を表す決議を出すことを要請した。これにより上院における弾劾裁判の本格審理は事実上7月以降の次期議会に持ち越されることとなった。
さらに最高裁判所は7月末、サラ副大統領に対する下院の弾劾手続きが違憲とする判断を全会一致で行った。副大統領への弾劾申し立ては昨年3つの団体が別個に下院に提出し、その内容を総合した訴状を下院が今年2月に採択しているが、そのことが、「同じ公職者に対して、1年に1回を超える弾劾手続きを開始してはならない」と規定する憲法11条3項の5に抵触したと判断した由である。
最高裁の判断は弾劾内容に立ち入るものではなく、あくまで憲法上の手続き要件に照らして違憲としたものであって、手続きを踏まえれば来年2月以降新たな弾劾手続きを下院が開始することは可能だそうであるが、一般的にフィリピンにおける最高裁の権威は極めて高く、弾劾が早期に成立する雰囲気は急速に萎んだと言えよう。
以上がここ数カ月の進展であり、この記事にある通りサラ副大統領は当面の窮地を逃れたように見受けられる。ただこれをもってサラが次期大統領候補のトップランナーになったと言い切れるかどうかは疑問がある。
サラの人気は父である前大統領の高い人気を背景に維持されている面もあり、それゆえ記事にあるBHHのTシャツを着た支持者が目立つのである。また今後弾劾されるかどうかにこだわらず、サラが公金不正使用疑惑に対して議会で明確な説明ができなかったこと、および殺し屋を雇ったとの発言は既に深刻なダメージを与えている。また如何にドゥテルテ前大統領の人気が高いとは言え、ハーグにて拘束され政治活動もできない状況が続けば徐々に民衆の関心も薄れてくる可能性がある。
