不可能に挑戦した「本土鍋」
続く「おどり炊き」「炎舞炊き」
06年は炊飯器が大きく動いた年だ。三菱だけではない。タイガー魔法瓶は同年、土鍋IH炊飯ジャー「炊きたて JKF−A」を発売する。このモデルの発売時、「土鍋だって?焼き物だと寸法がでないだろう……」と、私は耳を疑った。メーカーに勤めたことがある人なら、寸法精度がどれほど大切なのか、身に染みている。寸法が正確でないと工業製品として生産できないからだ。
土鍋は、おいしいコメを炊く時の料亭の定番ツール。当然、炊飯器メーカーは内釜に使いたい。しかし、精度上工業製品への応用は無理と考えられてきた。この難題に挑んだのは、タイガーだ。詳細は『Wedge ONLINE』の拙稿「あり得ない精度の炊飯器の内釜、タイガー魔法瓶の『本土鍋』」に譲るが、陶器メーカーと組んで、見事に土鍋内釜をモノにした。
ここまで紹介した2つのモデルは、内釜に特徴がある。しかし、強沸騰は特殊な内釜を使う以外の技術でも対応できる。松下は、1977年に電気圧力鍋を市場に出している。大気圧以上の加圧をすることにより沸点をあげる技術で、100℃以上での加熱が可能だ。この技術を初めて炊飯器に導入したのは三洋電機だ。92年に「ECJ−IH10」に導入している(同社は2011年、パナソニックに吸収合併される)。そして13年、「Wおどり炊きSR−SPX3」が市場導入される。
Wおどり炊きは、「大火力おどり炊き」と「可変圧力おどり炊き」を組み合わせたものだ。「大火力おどり炊き」は、IH切り替え制御により発熱部を底、側面のように移動させることにより、強い熱対流を起こす。「可変圧力おどり炊き」は、急減圧による沸騰(炭酸飲料がキャップを開けると噴き出るのも同じ)で、一粒一粒に熱を伝える強沸騰技術だ。タイミングも重要で、センシングとプログラムも強化してある。
パナソニックの「おどり炊き」は熱対流時のコメの動きからとられた名前だが、象印の「炎舞炊きNW−KA10」は熱対流を起こすIH由縁の名前だ。象印はもともと究極の鉄釜を目指していた。「南部鉄器」が素材だ。だが、「重い」という欠点があった。内釜でコメの状態を整え、炊飯器に設置するには、並々ならぬ腕力が必要だ。内釜だけで2キロ・グラムオーバー。米、水を合わせると3キロ・グラムを超える。
このため、象印は南部鉄器で製品化したものの途中で諦め、IHを上手く組み合わせ、おいしく炊く方法に切り替えた。これが「炎舞炊き」だ。IHで発熱量を稼ぐにはサイズがポイント。大きい方がよい。しかし、象印は対流を強力にするため、サイズの小さいIHを複数設置、それを順番に発熱させることで、より強い対流を作り出した。内釜はステンレスとアルミが主素材。軽くなり、使いやすくもなった。
