財政の明暗を分けるもの
では、実際の政府債務残高の対GDP比はどのように動いてきたか、また、今後どのように動くだろうか。2024年度で、国の財政赤字は11.7兆円、公債残高は1070.9兆円、名目GDPは 617.0兆円、公債残高の対名目GDP比は174.8%である。
まず、今年度末の公債残高は昨年度末の公債残高に本年の財政赤字を足したものである。25年度から毎年10兆円の財政赤字を積み上げていくとどうなるだろうか。これを示したのが図1である。
図1には、毎年の財政赤字をゼロにする(財政均衡)、10兆円にする、20兆円にする場合の公債残高と公債残高の対GDP比を示している。残高はマーカー付きの実線、比率は点線で示している。
データは内閣府「中長期の経済財政に関する試算」(2025年8月7日)による。名目GDPは過去については実績、25年度以降については同「試算」の成長移行ケースを用いている。
今まで低成長が続いてきたので、成長移行ケースは非現実的な想定だという批判があるだろうが、ここで用いているのは成長移行ケースの名目GDPである。この成長率は3%弱である。
14~24年度の名目GDPの年平均成長率は1.7%である。この成長率が頭にあるから、3%の名目GDP成長率など非現実的な予測だと思ってしまうのだろうが、20~24年度の年平均成長率は3.4%である。すなわち、名目3%成長は十分に可能な目標である。石破茂首相も、40年度までに名目GDPを1000兆円にすると言っていた。これは名目GDPを年に3.1%で成長させることと同じである。
これらのことを認識した上で、図1をもう一度、見てみよう。公債残高は財政が均衡していれば一定の値のままだが、財政赤字が10兆円、20兆円のときには、毎年、その額だけ増えていく。ところが、公債残高の対GDP比は、いずれの場合も低下していく。財政均衡であれば素早く低下していくが、毎年20兆円の財政赤字でも公債残高の対名目GDP比は低下していく。
なぜ公債残高の対名目GDP比が低下していくのかと言えば、分子の債務残高が1.9%(20兆円の財政赤字÷公債残高1078.3兆円)増えているのに対して、分母の名目GDPが3%弱で伸びていくからである。過去に遡って考えれば、国の公債残高の対名目GDP比が、ピークで181%にもなったのは名目GDPが伸びなかったからである。

