2025年12月5日(金)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2025年10月21日

他国にはない通商関係深められるか

 高市氏といえば、若き日に米議会の議員事務所で研鑽を積んだ知米派である。これに、保守層の支持を得ていることを加えれば、何としても彼女のライフワークとして、日米関係における長年の懸案を解決していただきたいという期待が出てくる。日米関係を確固たるものとして、今後に不安を残さないような盤石なものとすることができれば、間違いなく歴史に残るであろう。

 まずは通商問題である。石破茂政権は赤澤亮正経済再生担当大臣が奔走して、とりあえずの通商合意に漕ぎ着けた。これを双方が尊重して強固な関係の軸とする、今月下旬に迫っている日米首脳会談の柱になると言っていいだろう。この問題は、当面そのまま継承するのが自然で、高市氏もこのことは十分に理解しているであろう。

高市新政権は、赤澤氏の交渉を引き継ぎ、深化できるか(赤沢亮正経済再生担当相のXより)

 現時点では、この合意を守りつつ、巨額な投資の実行の部分については、柔軟かつ現実的に対処していくしかないと思われる。ただ、いつまでも受け身で、しかも相手方の出方をビクビクと恐れるようでは、日米の特別な関係は続かない。なぜならば、この関係は、アメリカ・ファースト、日本ファーストなどと両側から綱を引き合う関係では全くないと言えるからだ。

 日本の技術、日本の製造技術と北米の目の肥えた消費者の嗜好、そして北米販売網に関与している人々の製品への信頼と愛着が合わさって、巨大な「ウィン・ウィン」の関係性が出来上がっている。この関係の規模と質は、ドイツや韓国には逆立ちしても真似のできないものだ。

 自動車は一つの例に過ぎず、日米における通商関係はその規模とお互いにおける重要度の深さにおいて、他の2国間関係とは次元が異なる。そのことを相互に認識して、今後も様々に浮上するであろう諸課題には、連携して対応するということ、これを高市氏には主導していただきたい。つまり、赤澤氏の交渉結果を十分に尊重しつつ、新たな問題には胸を張って現実的に対処していただきたい。

 もしかしたら、高市氏にも、また連携先となるであろう維新の会サイドにも、赤澤合意は一方的であり、もう少し日本の国益にシフトするような「条約改正」を勝ち取りたいという「欲」が出る可能性はある。そうした姿勢は危険極まりないので排除すべき、とまでは言わないし、国内向けに、そのような気骨を見せることは、統治のために必要ではある。けれども、方法論としては、相手方の感情論の虎の尾は踏まず、あくまで実務的かつ注意深く進めていただきたい。


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