トランプ相手には避けるべき歴史評価
2点目は歴史認識問題である。他でもない靖国神社の問題については、高市氏は既に総理としては参拝しないことを言明している。これは極めて現実的な判断であり、故安倍晋三元首相の自制的な姿勢の継承として評価できる。何よりもタイミングを考えると、こうした判断しかないことを支持者は理解すべきだ。
まず戦犯合祀のされている現在の靖国神社を現職総理が参拝することは、先の大戦における大義を主張することとなり、理念的には戦敗を受け入れず和平への叛意があるとされても仕方がない。
この点、つまり、戦後アメリカへの叛意という点を突かれると日米離反策が成立してしまう。しかも、現在は「自国ファースト」の姿勢が世界で荒れ狂っている時代だ。トランプ政権とは一対一で話せば問題ないかもしれないが、仮に米国の民主党左派の勢力が強まった場合に、日米同盟の正統性について再評価がされたりすると、危険な状況が現実化する可能性はあると思う。
その一方で、予測不可能な言動で有名なトランプ氏のことである。ポリコレ批判の文脈で、いつもの前例無視のクセが出て「自分も靖国に行ってみたい」などという発言を漏らす可能性も全く否定はできない。
一部の保守派は歓迎するかもしれないが、仮にそうした事態となったら、東アジアの戦後秩序は「ちゃぶ台返し」となって、関係国の全員が不幸になる。もちろん、可能性は低いが、いずれにしても歴史評価という話題は、トランプ氏を相手にする場合は避けるのが賢明であり、高市氏もそのことをよく理解していると考える。
懸念は「円高の暴走」
直近の問題として警戒が必要なのは、為替問題である。高市政権の成立が有力視される中で、ジワジワと円安が進んでいる。この流れ自体には、高市氏が安倍政権の金融政策を継承する期待があり、別段驚くには値しない。物価への悪影響が心配だが、減税や給付で対処しなくては選挙に負けることも、高市氏は痛いほど理解していると思われる。
問題は、円安が一定水準を超えた場合に、トランプ政権の周囲から異論が出るという局面だ。その場合に、投機筋が反応するかどうかは五分五分だが、可能性は十分にある。
そして、投機筋が動いた場合には、円高への振れ幅が大きくなる可能性は否定できない。「高市円安」の最大の問題は物価ではなく、トランプ政権周囲を刺激し、結果的に円高が暴走するというシナリオである。
円高の何が悪いのかというと、日本発の多国籍企業の海外収益が縮小して、日本株の暴落を招く危険もあるが、本丸はそこではない。株だけでなく、不動産にも大規模で入っている「日本買いの投機マネー」が、「日本円の最後の輝き」に対して瞬時に反応して一斉に利益確定の売りに走るという危険性がどうしても否定できないのである。
