2024年12月4日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2014年6月16日

 米海軍大学のジェームス・ホームズ教授が、ディプロマット誌ウェブサイトに5月10日付で記載された論説で、南シナ海における中越衝突とそれに対する米国の対応のあり方を論じています。

 すなわち、中国が石油掘削機を中越係争海域に設置したことを契機に、中越の艦船が対峙している。撃ち合いはないが、放水や衝突が起こっている。

 ベトナム戦争終了時に、中国は、西沙諸島を支配下におき、その後「疑いのない主権」を主張している。今回係争地域には中国海軍の艦船も出てきた。中国は孫子のいう「覇権者」として近隣諸国を畏怖させることを好むが、過去の中越衝突で酷い目にあったことを思い出して、沿岸警備船ではベトナムを圧倒出来ないと考えたのかもしれない。ベトナムは、弱いフィリピンとは違う。

 沿岸国の水域に環礁を奪うために公船を送ることは、他国の陸の国境地帯に哨所を作るのと同じである。中国は、水域も領土と主張しているが、スカボローやミスチーフ環礁で越境侵略をしている。越境侵略を止めることが、防衛条約や国連憲章の中心目的である。

 しかし、米国の支援は、沿岸国の領土であることが明らかな水域に適用されるべきである。ルソン沖合やベトナム中央部に隣接した200カイリ水域などである。南シナ海中央部では事態は不明確である。国際裁判で領有権が確定した場合を除き、米国が西沙、南沙諸島で戦うとは考え難い。ここで米国が助けに来ると期待しても、失望することになる。

 国連海洋法条約が定義する島(天然の、満潮時に水没しない人間の居住や経済生活が可能なもの)以外について米国が戦うことも考え難い。西沙、南沙でこの「島」にあたるのは、中国が支配するウディ島以外にはないのではないか。海洋法条約は人間の居住が不可能な岩は、経済水域(EEZ)も大陸棚も持たないと規定している。

 これは中国の「9点線」の問題を明らかにする。東南アジア諸国と米国は、相互防衛取り決めを沿岸国本土に近接するEEZに適用するとともに、西沙、南沙諸島の地位についての法的決定を追求するべきである。

 フィリピンは最近、海洋法裁判所に提訴した。法律家は北京の「9点線」に法的根拠がないことに同意するだろう。南シナ海の中央部の小さな環礁は「島」ではないとされるだろう。この決定は、南シナ海のほとんどを国際的公共財である公海にすることになる。


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