当時、遺伝子情報の解読により高分子を使った新タイプの医薬品が出てきており、その開発には当然ながら「莫大な費用がかかる」と永山氏は読んでいた。ロシュとの提携は、両社が長期的に生き残り、成長し、強固な事業を築くための選択だった。
毅然とした意思決定は単なるトップダウンではないが、「過剰なコンセンサス志向」でもない。威圧的な権威者ではなく、現場に自ら足を運び、社員や顧客の言葉を直接聞き、共に未来を描くアプローチャブルな存在だ。その姿勢こそが組織に「信頼」と「共感」を生み、実行力を引き出している。
改革に必要なトップの「人間味」
「和をもって貴しとなす」だけではなく、「和を尊びつつも、必要なときに断を下す」。こうしたリーダーに共通するのは、「人間力」と「等身大のリーダーシップ」である。
例えば12年に当時業績低迷が続いていたソニーの社長に就任した平井一夫氏は、ソニーの全社タウンホールミーティングを自ら主導し、自分の言葉で直接語り合うことにこだわった。
あるタウンミーティングでは、平井氏への人となりに関する質問が続いた。「ゴミ出しをされますか」など純粋に個人的な質問もあった。
「ゴミは出しますが、実はそれは簡単な部分です。大変なのは、家中のゴミ箱からゴミを集めることです」と、平井氏は答えた。平井氏は「社員は単なるプレゼンテーションマシンのために働いているのではありません。ゴミ出しをするような普通の人間のために働いているのです」と語り、リーダーの人間味が組織の活力を生むことを強調していた。
90年代末にアップルの創業者スティーブ・ジョブズが「ソニーのような会社になりたい」と言ったが、その時のソニーはテレビ等を含むエレクトロニクス製品で世界トップ・ブランドの会社で、売り上げの3分の2はエレクトロニクス製品であった。平井氏が社長に就任した頃は多くの社員がエレクトロニクスの会社として自社を認識していた。
平井氏の改革後はソニーの事業ポートフォリオは全く違う姿となり、エレクトロニクス製品は売上の3分の1未満でゲーム・音楽・映画などのエンターティメントコンテンツと金融が3分の2を占める会社に生まれ変わったのだ。このような大改革はカリスマが強力なトップダウンで行っても現場はなかなかついてゆけない。現場の社員がトップを一人の人間味あふれる存在として認識した時に、難しい方向転換を受け入れ、創造性を発揮して、実際にコミットするのである。
権威でもカリスマでもなく、人として信頼できるリーダーが毅然と決める──。それが日本型変革の中核となりつつある。
株主だけのためではなく、社会のために
リゾリュートなリーダーはバランスの取れたステークホルダー・モデルも模索している。AGC社長の島村琢哉氏の言葉は、そうしたリーダーの見解を代弁している。
「今の時代、株主のことだけを考えていればいいとは思いません。(中略)取締役会は株主、社会、従業員、取引先などすべてのステークホルダーの利益を等しく意識し、コミットする時代が来ていると思っています」
株主のために一定の配当性向を維持するようコミットすることは保有株式の維持や増加に必要だが、社会のためには従業員に安定した雇用を約束し、やりがいを感じてもらう必要もあるという考えだ。
