知識人階層(意識高い系)トルコ人のクルド人に関する冷静な見解
【モスクの宗教指導者54歳】
9月14日。アンタルヤの西方に位置するManavgatの村のモスク。モスクのイマム(宗教指導者)は54歳。イマム曰く「KPPの武力闘争は昔の話で今ではクルド人もトルコ人の友人である」と当然のことのように語った。
そしてトルコ人と普通のクルド人は、普通の隣人同士の関係であり、トルコ人とクルド人の結婚も珍しくないという。現にモスクの隣家の50代の奥さんはクルド人であると例を挙げた。
【ホテルの大卒のマネージャー】
9月18日。地中海沿いのリゾート町のアランヤのホテルのマネージャーは38歳。大学でスペイン語を専攻して南米を旅行したという。非番の時にはスマホのTV通話アプリを利用してトルコ人の生徒にスペイン語会話をリモート授業していた。「クルド人による政治的テロ事件はなくなり、表面的な対立はなくなったが、心を許しあえるような真の和解には相当長い時間が必要だと思う」と客観的に分析した。筆者には彼の分析が実相に近いように思われた。
【英国留学経験のあるチャナッカレの知識人の経営者】
70歳の典型的なトルコの知識人は「クルド人の大半は普通のトルコ市民だ。自分の店で10年以上も働いているクルド人女性は働き者で責任感も強いので頼りにしている」と身近な例を挙げた。「現在ではトルコ国内のクルド人については心配していない。問題はシリア国内のクルド人だ。イスラム原理主義的勢力が主導する新体制のなかで正当に受け容れられないと不安定要因になる」と懸念した。
トルコで筆者が遭遇したクルド人の印象
【セルチュクの公園のクルド人】
8月5日。古代ギリシア・ローマの遺跡で有名なエフェソスのあるセルチュク市郊外の公園で夕刻テントを設営。近隣の小学生の男女悪ガキが10人くらい集まって盛んに囃し立てる。無視していると、筆者の荷物から食料を取り出して遠くに放り投げたりテントに向かって石を投げたりと乱暴がエスカレートする。
言葉で注意したり追いかけたりすると益々乱暴がエスカレートする。悪ガキどもは連携して行動しており明らかに悪事を楽しんでいる様子だ。1時間くらいすると飽きたのか三々五々と去って行った。
すると遠くで様子を伺っていたのか数人の婦人がやってきて拙い英語で「自分の家は公園の横。主人が後で貴方の様子を見に来る」と言った。聞くと彼女たちはクルド人だった。クルド人の彼女たちはトルコ人やアラブ系の子どもに遠慮して遠巻きに見ているしかなかったのだろうと推察した。
夜9時頃クルド人男性がテントに筆者を訪ねて来た。仕事帰りで疲れているはずなのに丁重に挨拶してから英語で「悪ガキどもは夜中に来るかもしれないので注意して下さい。なにかあったら何時でも良いので自分の家に来て下さい」と一軒の家を指差した。控えめで親身になって心配してくれたクルド人夫婦に感謝。
【トラックに乗せてくれたクルド人2人組】
8月17日。地中海のリゾート都市マルマリスの市街地からフェティエを目指して走り始めたが前面に山が聳えて急坂が続いている。30分くらい自転車を押して坂道を上っていたらトラックが停まって助手席から青年が乗るように手招きした。これ幸いと荷台に自転車を載せてもらい助手席に乗り込んだ。
運転手と助手の2人はクルド人であった。マルマリスからオルタジャまで行くというので大助かりだった。約70キロの山岳地帯と内陸の丘陵部の田園地帯を1時間半で通過した。
やはり助手のスマホの通訳アプリが大活躍。2人は自営で設備工事の仕事をしている。カーステレオで流しているのは全てクルド音楽だと誇らしげだ。彼らのクルド愛をひしひし感じた。彼らにとりクルド人が住んでいるクルディスタンの山岳地帯は聖地のようだ。“クルディスタンの美しい自然の中で暮らすのが人生の理想”とか何度もクルディスタンを賛美した。
トルコ人相手に商売しているのでトルコ人そのものについて悪感情はないという。他方でエルドアンは嫌いだという。エルドアン政権が続く限りクルド人の完全自治は遠い夢と諦めている。
米国もEUもクルド人問題では頼りにならないという。欧米の支援を受けると見返りに利用されるだけだと過去の苦い歴史を振り返った。他方でウイグル族を弾圧している中国には強い不信感を抱いている。2人は「やはり日本だけが信頼できる友人だ」と結論づけた。2人の話しぶりからクルド人を取り巻く八方塞がりの国際関係を思いやった。
【地方の町の17歳の雑貨屋の店員】
9月13日。地中海沿いの小さな町マナブガットの雑貨屋の店員の17歳の少年は高校には進学せずトルコ東部の故郷から出てきて長兄が経営する店で手伝いをしている。父親はクルド人で母親はザザ人(トルコ東部に100万人ほど居住している小数民族)。ザザ人もクルド系らしい。
少年は勉強してもクルド人には素晴らしい未来は開けないと周囲の状況から悟っていたので高校に行かなかったと打ち明けた。少年は無気力な雰囲気で煙草を吸った。トルコの社会にはやはりクルド人にはガラスの天井が存在するのだろうか。
以上 次回に続く
