もちろん、悪いことではない。輸出産業だけでなく、総合商社が全世界ベースの投資ファンド化しているように、日本経済というのは、世界ベースでの投資立国という様相を呈している。アベノミクスも、サナエノミクスも同じように円安を志向しているのは、このためだ。
だが、翻って考えてみれば「高市トレード」がドルベースではせいぜい5%アップに過ぎなかったように、世界経済の基軸通貨であるドルの世界から見れば、東証のアップ率は極めて小さい。例えばの話だが、1989年と現在について日経平均のドル建て比較をすれば、決して「回復」などしていないし、まして時価総額で考えればニューヨークを凌駕していた昔日の面影は皆無である。
つまり、1億人強の国民の生活水準を支えるには、東京証券取引所の今日における「真水」の実力というのは極めて限られていると言わざるを得ない。もっと言えば、市場全体がドル経済圏に依存しているのであり、だからこそ11月13日のNY市場におけるテック株下落などという現象が起きると、ダイレクトに反応して下がってしまうのだ。
揺らぐ資金調達機能
2点目は、国内企業への資金調達が弱くなっているという問題だ。ここ数年、かなりの優良企業であって、長年東証プライムを構成していた複数の企業が上場廃止という選択をしている。多くの場合は、決して債務超過などに陥ったわけではなく、上場を維持しようと思えば問題なくできたケースである。
理由としては、国内市場が縮小する中で業績が伸びないとか、赤字部門を整理できない中で円安という環境下では、外国勢力に敵対買収されてしまうのを恐れたケースが多い。
つまり、日本国内における薄利ではあるが、安定的な消費者との関係を守ること、ブランドイメージを守ることのためには、上場廃止という選択をせざるを得ないというわけだ。創業家の存在感を維持したいというよりも、創業家はむしろ株の買い取り側に回って資金を流出させている場合もある。
米国系のPE(プライベート・エクイティ=非上場株に投資するファンド)が日本国内で勢力を伸長して、キメの細かい投資を始めたということもある。けれども、全体的には東証に上場する場合と比較すると、企業の資金調達能力は限られてくるわけで、経営としてはどう考えても守勢ということになる。
一方で、将来性のあるベンチャーへの投資、つまりリスクマネーの呼び込みということはどうかというと、こちらも上手く行っていない。21世紀になって、米国やアジアでベンチャー企業がどんどんユニコーン化する中で、日本でもジャスダック、マザースなどのベンチャー向け市場が期待されたが、残念ながら成功しなかった。
根本的な要因としては、日本国内には巨大な個人金融資産があるといっても、その多くは高齢者の老後資金であって「リスク選好マネー」ではない。むしろ、リスクを忌避し、銀行や郵貯を通じて国債を買い支えているだけの存在である。要するに日本国内には「ハイリスク」を覚悟して「ハイリターン」を追い求める種類のマネーは限られているのである。
