産業医は戦力になるのか
人事課は、診断書を受け取ったら会議を開く。配布された主治医診断書を健康管理室職員、産業医とともに読み込む。人事担当者からの報告、健康管理室職員から健康状態についてのコメントがなされる。
そして、全員の視線が産業医の方を向く。「先生、どうお考えでしょうか?」と。
その産業医が精神科医ならば、「まずは面談してみましょう」と返答するだろう。非精神科医・産業医ならどうか。「専門ではないので」と言ってお茶を濁すであろう。
産業医が判断すべきは、精神医学診断の妥当性ではなく、むしろ、職務遂行能力である。それならば、現在の、本人の睡眠、食欲、倦怠感等の、医師一般が評価できる項目を見て、本人の希望、職場の状況、就業規則等を考慮して、療養期間を決めればよい。精神科医でなくても、できなくはない。しかし、非精神科医なら、おそらくは断るであろう。
今日の産業社会において、産業医活動におけるメンタルヘルスの比重は重い。一方で、産業医全体に占める精神科医の比率は、相対的に少ない。大多数の産業医は非精神科医であり、診断書問題については無力である。
産業構造で変わった産業医の〝姿〟
産業医は、伝統的には化学物質・有害業務管理のような労働衛生こそが、業務の中心であった。1938(昭和13)年の工場法による「工場医」が、本邦産業医の起源とされる。
その時代にあっては、もし、精神科医が産業医を務めようとすれば、文字通り、「名ばかり産業医」となったであろう。精神科医に「工場医」が務まるはずがない。
しかし、時代は変わった。産業構造は第二次産業中心から、第三次産業中心に移った。ニーズの大部分は、メンタルヘルスである。この時代にあって、化学物質・有害業務管理・労働衛生一般を得意とする産業医に、メンタルヘルスの課題を押し付ける方が、お門違いである。
したがって、事業所としては、通常の産業医とは別にメンタル事例担当産業医を雇用するか、精神科医と業務委託契約を結んで、顧問医として助言させるかの、二択となる。非精神科医・産業医に負担を負わせれば、その産業医は辞めて、他の会社に移るであろう。専門性を生かせる職場は、他にあるからである。
