精神科医なら何をするか
精神科産業医ないし精神科顧問医なら何をするか。
まず、社員本人と面接する。評価の中心は、抑うつ、不安、不眠などの精神症状だけでなく、業務遂行に関わる問題であり、その重症度と回復可能性である。診断書には、大抵、「適応障害により3カ月の休職が必要」などの記載がある。そこで職場での適応状況について尋ねてみる。
すると過大な業務量、法外な時間外労働、職務と適性とのミスマッチ、ハラスメントなどの労務問題が浮かび上がる。これらはどれ一つとして、健康問題ではない。社員において、抑うつ、不安、不眠などがあったとしても、その原因が職場にあるのなら、労務問題として処理しなければならない。
診断書をうのみにして、「3カ月の休職」としても、事態は解決しない。なぜなら、3カ月後に職場復帰した時、「ほうれん草を食べたポパイのようにたくましい人間に変身し、過大な業務量、法外な時間外労働、上司のハラスメント等に負けない、ハガネのような強いこころを身に着けてきた」など、ありえないからである。
本人をメンタル休職に追い込んだ状況は、職場に残存する。本来、長期休職でごまかすのではなく、業務量を見直し、時間外労働を削減し、パワハラ上司について適切な注意・指導を行うことこそ必要なはずである。
精神科産業医ないし嘱託精神科医としては、「事態を健康問題として処理すべきではない。直ちに職場状況について調査し、業務負荷を本人のこころの健康を害さない範囲にとどめるべき」との意見表明を行えばいい。
長期休職のこころの健康への影響
精神科医としては、社員本人に長期休職の弊害を説明し、療養は短期に留めるよう説得したい。
ほとんどの社員は、職場から逃れたい一心で医師に診断書を書かせている。その一方で、長期休職の弊害を知らない。
メンタルクリニックの医師は、「休職を希望したのはあなたですよね」というスタンスをとる。すなわち、こころの健康が悪化しても、それは自己責任に帰すべきとする立場である。
前回、レバレジーズの調査結果について述べた通り、メンタル不調による長期休職は、悲惨な経過をたどる。長期休職は、復職後、再度の長期休職を招き、かつ、再休職はいっそう長期化する。
この調査同様の事実は、学術研究のレベルでも確認されている。日本の複数企業におけるうつ病休職者を調査した研究(Endo et al., 2019)である。
2回以上休職した214人を検討すると、初回の休職期間の中央値は約100日なのに対して、2回目は150~160日となっている。しかも、初回休職が長いほど、復職の確率が下がり、 復職しても再休職しやすく、 再休職期間はいっそう長引くという負のスパイラルが認められているのである。

