自宅療養は短期間に留める
休職診断書を持ってくる社員に対し、そこに業務負荷、時間外労働、ハラスメント等の事情があるのならば、社員に一時待機の機会を与えることは悪くない。安全配慮の目的にも適う。
その場合、就業規則の中に、「病気欠勤」等の呼称で社員の権利として仕事を休める期間が記されているはずだから、その期間の範囲で自宅療養するように勧めればいい。そして、その期間中に、会社としては、業務内容、時間外労働、ハラスメント等についての対応策を打ち出すのである。
ここから先は、精神科産業医・顧問医とともに人事担当者も同席する。そして、人事は就業規則を説明し、精神科医は長期休職の弊害を説明する。人事担当者が説明すべきは、「傷病休職」は「病気欠勤」とは異なり、社員が「申請」して「取得」するものではなく、会社が「発令」するものであるということ、さらには、その復帰もまた「発令」であり、そのためには社員に休職事由消失を証明する責任があり、それが不十分と判断されれば、「発令」はなされず、そのまま期間満了となれば、規則に則って自然退職となるということである。
精神科医は、社員のみならず、人事担当者にも説明しなければならないことがある。それは、長期休職の弊害は、職場ストレスの弊害よりはるかに深刻だということである。睡眠リズムの崩壊、運動不足による体力低下、孤独のもたらす抑うつ、さらには、業務遂行能力の低下など、長期休職は百害あって一利もない。
レバレジーズ社の調査や、日本の調査研究(Endo et al., 2019)がともに明らかにしたことは、長期休職は社会人としての人生に回復困難な打撃を与えるという事実である。もちろん退職もまた選択肢のひとつである。退職せず、会社に籍を置いたままで長期療養することは、その後の人生を崩壊させる。避けるべきである。
社員を診断書ビジネスの陥穽にはまらせてはならない。そのために根気強く慰留することもまた、人事担当者の任務である。その際、健康上の理由を説くのが精神科産業医の役割と言える。
