2025年12月12日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年12月12日

 他方、(イランに対する国連制裁を再開させる)スナップ・バックにより対イラン国連制裁が再開され、既に弱体化しているイラン経済にはさらなるダメージとなっている。これらに起因する悲惨な状況は、大規模な反政府デモの燃料となろう。イランを支配する聖職者達は、反体制派への弾圧を行っている。

 このような腐敗したイランのイスラム革命体制の崩壊を期待することは何ら間違っていない。しかし、期待は戦略ではない。

 トランプ大統領は、「イランの核開発計画を完全に破壊した」と言い張っているが、ウラン濃縮施設への空爆はただの時間稼ぎにしかなっていない。今とられるべき最上の方法は、武力行使の脅しと厳しい経済制裁を続けつつ、協議には応じるというオープンな姿勢を示すことだ。

 そして、中国もイランへの最新の武器の売却は、中国とイスラエルおよび米国のみならず、ペルシャ湾岸のアラブ産油国との関係を困難にすると理解しなければならない。次なる戦争は不可避ではない。しかし、そのためには問題が依然として存在しており、確実な強制力によるバックアップに基づく外交によってのみ解決される。

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面子にこだわるイラン

 上記の社説は、真っ当な主張をしているが、問題の本質には触れていない。

 まず、6月のイスラエルと米国の空爆の結果、イランが攻撃を阻止出来なかったのはイラン側に核抑止力がないためだと結論付け、イランは既に核武装に舵を切ってしまっている可能性を排除出来ない。その場合、イラン側は60%の高度濃縮ウランの核兵器製造のための転用が露見するのでIAEAの査察を受け入れることは絶対にできない。そうではないという前提に立てば、話し合いにより問題を解決することは可能だとは思われる。

 しかし、話し合いによる解決の前提として、トランプ大統領が「イランに独自のウラン濃縮は絶対に認めない」という主張を撤回するか、緩める必要があろう。イラン人は、頭が良く現実的だが、同時に面子に非常にこだわる。これは、イランが、偉大なペルシャ帝国の末裔との誇りからだけではなく、外部勢力による干渉に苦渋を舐めてきた歴史から、外からの圧力に屈服することを嫌うためだ。

 イラン側は、ウランの濃縮は核拡散防止条約で認められた権利だと考えており、ウラン濃縮を一切認めないと米国が主張し続ける限り、米・イラン交渉が再開されたとしても交渉に実質的な進展はないだろう。上記の社説では経済制裁によりイラン経済が崩壊し、国民がイスラム革命体制の圧政に立ち上がる可能性を示唆している。

 確かにイスラム革命体制へのイラン国民の支持率は20%とも言われており、非常に不人気なのは事実だが、同時に外からの圧力を嫌うというイランの国民性から、国民がイスラム革命体制を支持していなくても、体制が米国の圧力に抵抗し、ウラン濃縮活動を続けることは支持するだろう。6月の空爆時にイスラム革命体制への国民の支持率が一時急上昇している例がある。


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