2025年12月25日(木)

未来を拓く貧困対策

2025年12月25日

論点整理――期限超過、同意書、尊厳への配慮欠如

 報道や市長の記者会見から、今回の問題は「期限超過」「同意書」「尊厳への配慮」の3点に整理することができる。

 生活に困った立場の弱い人たちに、賞味期限の切れた売り物にならない食品を渡して、「何かあっても自己責任」という同意書にサインをさせる。自分の保身を優先し、市民への配慮を欠いた対応に言葉を失う。まったく役所はけしからん。

 乱暴に論調を整理すれば、このように整理できるだろうか。

 しかし、一つひとつの論点を丁寧に紐解いていくと、簡単に割り切れるほど単純ではないことがみえてくる。

賞味期限切れ食品は本当に危険なのか

 まず前提を確認したい。日本の制度では「賞味期限」は「美味しく食べられる期間の目安」であり、保存条件を守っていれば、期限を過ぎても直ちに食べられなくなる訳ではない。一方、「消費期限」は「安全に食べられる期限」で、超過食品は飲食を避けるべきとされる。したがって、「賞味期限切れ=即危険」と短絡するのは誤解だが、食品の種類や保存状況等によってリスクは変動するため、一律に安全と言い切ることもできない。

 消費者庁・農林水産省・関係団体が24年12月に策定した「食品寄附ガイドライン」では、寄附食品の品質・衛生管理、期限表示の伝達、合意事項の整備、トレーサビリティ、事故時対応などの遵守事項を整理している(消費者庁「食品寄附ガイドライン」)。

 ガイドラインには、賞味期限に関しては以下の記述がある。

賞味期限は「定められた方法により保存した場合において、期待される全ての品質の保持が十分に可能であると認められる期限を示す年月日」であることから、賞味期限を過ぎたとしても、直ちに安全性を欠き、食べられなくなることを意味するわけではない。そのため、賞味期限内に消費されることが望まれるものの、仮に賞味期限までの期間に余裕がない(期限切れを含む。)場合にも、以下の点に留意し、食品ロス削減の観点からの取扱いを提供先と合意の下検討することが望ましい。
・賞味期限は「定められた方法により保存した場合」を前提にした期限であることから、容器包装に破損等がなく、定められた方法で適切に管理を行ったものでなければ提供すべきではないこと。
・賞味期限が過ぎているものを提供する場合にあっては、提供先の自尊感情が損なわれることのないよう十分に配慮の上、まだ食べられる期限の目安について、提供元からの情報等に基づく科学的な根拠がある場合に限り提供されるべきである。
出所:消費者庁「食品寄附ガイドライン」、p62.

 なお、ガイドラインには法的拘束力はなく、罰則もない。ガイドラインの文言にしても「提供されるべき」という曖昧な表現に留められており、「提供が認められる」といった義務規定ではない。

 実際、賞味期限を過ぎた食品について、安全性を確認したうえで配付することは珍しいことではない。NHKの報道に取り上げられたNPOでは、賞味期限が過ぎた食品を提供する際は調理師や提供元の小売店などと協議した上で安全性が確認できたものを配っているほか、食中毒など、万が一の事故に備えて保険にも加入しているという(NHK、2025年12月24日)。

 消費者庁では、ガイドラインに適合した運営を行うフードバンクの認証制度に向けた検討を進めている。食品寄附活動への社会的信頼を高め、企業からフードバンクへの寄附活動の拡大につなげるという点では、意味のある取組である。

 一方で、154頁にもおよぶ食品寄附ガイドラインを読み込み、そこに定められた諸々の規定をクリアできるフードバンクは限られる。まして、食品ロスの担当課でもなく、本来業務に追われる生活保護の担当課が同水準をクリアすることは至難である。

 では、「賞味期限を過ぎた食品を配布すること自体が間違っていた」のか、あるいは「フードバンクではない自治体が食料を配布することに問題があった」のであろうか。不思議なことに、この点を明確に述べた報道機関はなく、結論は視聴者に委ねる構成になっている。


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