2025年12月25日(木)

未来を拓く貧困対策

2025年12月25日

尊厳の徹底が支援を委縮させる

 遠藤彰良市長は、記者会見で「尊厳を傷つけるのはやってはいけないこと」「『困っているからこれでいいだろう』と職員にはそういう考え方はなかったと思うが、無意識の差別があったのではないかと言われても仕方がない」と対応に問題があったことを認めた。そのうえで、「個人に食品の安全性を押しつけることになった。公的機関が安全性を担保しないといけない」と陳謝した(FNNプライムオンライン、2025年12月23日)。

 遠藤市長のコメントは自治体の首長として当然の見解であり、生活保護を担当する職員はもとより、市職員すべてに、生活保護利用者に対する差別や偏見のまなざしがなかったかを、今一度、問い直してほしい。

 しかし一方で、こうも思うのである。「『余計なことをした』と言われるのなら、もうやめてしまおう」と考える職員が出てくるのではないか。

 これは、徳島市だけの問題ではない。他の自治体の担当者は、叩かれている徳島市をみて、「うちは余計なこと(法外援護)をしていなかったから問題にならなかった。よかった」と胸をなでおろしているのではないか。あるいは、ひっそりと法外援護を続けていた自治体の担当者は、「何か問題が起きる前に、やめてしまおう」と考えるのではないか。

 辞める理由まで容易に思い浮かぶ。「私たちの部署では、食品寄附ガイドラインに則った対応ができないから」と。何せ法外援護である。大半の事例では、議会を通す必要もなければ、要綱・要領の改正などの面倒な手続きをする必要もない。

 その結果、誰が困るのか。言うまでもなく、今まで食料支援を受けてきた受益者である。

厳格なルールと柔軟な運用のはざまで

 物価高騰の影響で、食料支援が必要な生活困窮世帯は増加している。これに伴い、フードバンク団体の業務量も増えている。一方で、支援に必要な食品や資金の寄付、ボランティアの参加は減っている(一般社団法人全国フードバンク推進協議会「フードバンク活動の動向と課題」)。

(出所)一般社団法人全国フードバンク推進協議会「フードバンク活動の動向と課題」より 写真を拡大

 大規模災害やコロナ禍などの影響で注目されたフードバンク活動は、今、曲がり角を迎えている。物価高騰のために経営体質の改善を進める民間企業は、生産量を調整することで、そもそも食品ロスを発生させないように努めている。こども食堂などの生活困窮者以外も視野に入れた食支援活動の広がりは、皮肉にも「生活困窮者層への資源の枯渇」を生み出している。

 こうした中で、マーケティング戦略やコンプライアンス体制の確立に熱心な中規模以上の民間団体に資源が集中し、地方で個人の善意で取り組んでいた中小零細の団体が存続の危機に陥っている。

 自治体でも格差が広がる。庁内連携や市民サービスの改善に熱心な自治体は民間企業や地域のボランティア団体を巻き込んで支援体制の構築を図っている。一方で、生活困窮者に対する差別や偏見が色濃く残り、従来型の発想から抜け出せないでいるところも少なくない。その中で、徳島市の対応を責めるだけで良いのだろうか。

 「どうして賞味期限切れの食品しか渡せなかったのか」「現場では、どんなことに困っているのか」「なにか助けてほしいことはないか」――。いたずらにルールの厳格化だけを求めるのではなく、生活困窮者の最も身近にいる職員に寄り添い、苦悩に耳を傾ける。努力している点があれば正当に評価し、改めるべき点があれば、どうすればよいのかを一緒に考える。

 徳島市の事例から学ぶことができるのは、「これから」である。

孤独・孤立社会の果て 誰もが当事者になる時代▶アマゾン楽天ブックスhonto
Facebookでフォロー Xでフォロー メルマガに登録
▲「Wedge ONLINE」の新着記事などをお届けしています。

新着記事

»もっと見る