トラクターの販売価格は約1.5億~2億ドン。日本円にすると、88万円から118万円と、非常に高額になる(取材時点の1円=170ドンで換算)。
一方、機械のレンタル料は360平方メートルあたり約12万ドン(約600円程度)。トゥアン氏が運営する全圃場の耕うんを依頼すると、1万2000円程度となる。機械を保有するのに比べ、初期費用は100分の1程度となる。「物価から考えても安価とは言えないが、レンタルを選ぶのが合理的」とトゥアン氏は話す。
機械レンタルの中心的役割を担っているのが、周辺農家とともに組織している協同組合である。トゥアン氏が運営する農地を含む200ヘクタールの圃場を管理し、20台のトラクターを保有しているそうだ。主に「生産・作業受託」に機能が特化した協同組織で、日本のような金融・購買を含む総合農協とは構造が異なるという。
この考え方は、筆者が以前Wedge ONLINEの『〈衝撃〉ベトナムのコメは「キロ100円」 どうしてそんなに安いのか?日本人も知るべきベトナム農業の実情』で紹介したコメ農家の考え方と一致している。協同組合による機械の共同利用は、コスト面で合理的な支援策である。
日本でのコントラクター事例
この「機械を所有しない農業」は、日本でもすでに別の形で展開されている。
東京農業大学総合研究所農業協同組合研究部会が11月13日に開催した「2025年度(第18回)農協に関わるシンポジウム」で、JAとぴあ浜松やJA鹿追町の取り組みが紹介されている。
東京農業大学の白石正彦名誉教授の資料によると、酪農・畜産が主要産業である北海道十勝地域のJA鹿追町は、広大な草地における牧草収穫作業を請け負うコントラクター事業によって効率化している。この町の酪農家の平均耕作面積は70.3haと、北海道の平均より大きいが、牧草の収穫作業は年々外部委託への依存度が高まっている。
現在では牧草収穫面積の122%をコントラクターが担う。この122%は、複数回の刈り取り作業も含む延べ面積を示している。
鹿追町農協営農部コントラ課の24年のコントラクター事業の収穫面積は牧草・デントコーン合計で年間6906ha(現在、酪農専業経営65戸、酪農複合経営4戸)。同コントラ課が収穫する牧草面積は町内の約80%、デントコーン面積は約70%を実質的に作業する(白石正彦名誉教授の資料による)。これに使う収穫機械は1台数千万円と農家個人では到底保有できない高額だが、JAが組織的に導入・更新し、農家の経営負担を大幅に軽減している。
高度な農業機械の操作は技能を要するが、JA職員が各種技能資格を持ち、専門的に担当することで労働力不足を補う。全地球測位システム(GPS)ガイダンスやセンシング技術も活用しており、作業精度と効率の向上、安全性確保も図られている。
天候変動の激しい十勝において、同農協のコントラ課は、4〜5つの小さなグループに分けて効率的に作業している。適期に一斉作業でき、農家の安定生産に大きく寄与している。
