JA鹿追町のコントラクター事業は単なる機械共同利用にとどまらず、地域全体の生産基盤を維持する基幹インフラとして機能している。
日本政策金融公庫農林水産事業本部情報企画部「農業景況調査(令和7年1月)」によると、自動操舵機能などスマート農業導入に際しての課題として、「初期投資費用が高い」が79.0%と最も高く、次いで「ランニングコストが高い」(34.7%)と、機械コストの高さを指摘できる。
スマート農業においても、JAを活用して作業委託を行い、初期投資や維持費負担を軽減する必要性が高まっていると言える。
農家の平均年齢が70歳近い日本では、新規の機械投資に踏み切るのが難しい現状がある。資機材価格の高騰もさらに重荷となっているからだ。
今後の農協の役割
今回紹介したベトナムと日本の事例を規模、機械価格、協同組織の機能、作業委託の普及率といった観点で整理すると、図表のようになる。ベトナムは小規模農家が多いため必要な機械を組合がまとめて保有し、日本の鹿追町は大規模草地の収穫や高額機械の更新をJAが組織的に担っていることが分かる。
ベトナムも日本も協同組合が農家を支えるための共同利用を進め、機械所有コストを減らしている。小規模農家が大半を占めるベトナムでは、機械を個人で所有することが経済的に難しい。そのため、協同組合が機械を集中保有する仕組みが自然に発達している。日本の多くの産地、特に小規模農家が多い西日本で参考になるはずだ。
機械の共同利用は、農協が「本来の協同組合としての存在意義」を取り戻す重要な手段である。今まで日本は適期作業への強いこだわりもあり、機械の個人所有に固執する傾向があった。全国のすべての産地が鹿追町のように、機械の共同利用の需要が高いわけではないかもしれない。しかし、高齢化とコスト上昇が加速する日本農業において、共同利用こそが農協の存在意義を農業内外に示す大きなチャレンジになるだろう。
日本では民間企業などもコントラクター事業に参入している。しかし、農協が本来持つ役割を再評価し、農家が直面する高コストなスマート農業といった課題を解決していくべきである。
この数年、政府もコントラクターを含めた農業支援組織の育成を後押ししている。農協を中心に据えた共同利用の仕組みを、政策としてより戦略的に後押しすることが求められている。こうした地道な活動こそが農協が農家にとってさらに不可欠な存在になっていくのではないだろうか。


