2026年1月10日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2026年1月9日

 カストは、広範な規制緩和、減税、そしてより小さな政府も約束しているが、法の支配と国内の労働者需要とのバランスを取らなければならない。90年代に急成長していた時期のようにチリを資本の投下先とすることで経済を刺激することに成功するには、効率的な合法移民制度を構築しなければならないだろう。

 議会の両院で共和党が多数派を得られなければ、カストは議会での連合を築く必要がある。しかし、彼にはチリが自信を取り戻し有権者がそれを有効に活用することを求めるというマンデートがある。トランプ政権はチリへの関税を引き下げ、貿易・経済パートナーにすることで彼の成功を助けることができる。

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内政上の公約は実現できるか

 最近のチリの政治は、イデオロギーや社会的価値観をめぐり国論が左右両極端で対立する中、中間派がどちらを支持するかで政治的方向性が決まってきたが、今回は大きく右に振れた。また、これは、ラテンアメリカ、特に南米の右傾化の動きを更に際立たせるものだ。

 上記の社説は、保守派の立場からカストの勝利に好意的であるが、社会的正義を求める左派の要求を背景に当選したボリッチが、分裂した国論をまとめられず、経済成長の停滞、移民の急増、治安の悪化を招き、改革に疲れた国民は、社会的安定と経済の好転に向けた変化を求めたとの分析は的確である。また、カストは、選挙戦において、同性婚反対、中絶禁止といった保守強硬派としての持論を封印し、移民、治安、経済に関する論点に集中したことが民衆の心を捉えた。

 他方、社説が触れた論点を含めて来年3月に発足するカスト政権の下での内政上の公約の実現は必ずしも容易ではなく課題や懸念もある。

 まず内政上の最大の課題は移民対策である。人口に占める移民の比率が、10年には2.1%であったものが、現在では10%、200万人に達しており、ラテンアメリカにおいても高水準にある。その内約33万7000人がベネズエラ人を中心とする不法移民とされ、治安悪化の背景ともなっている。

 カストは、国境に壁を設ける等により新たな不法移民の流入を阻止し、国内の不法移民に対しては、就労禁止、公共サービスの提供拒否、海外送金禁止等の措置と取り締まりの強化により自主的にまたは強制的に国外退去させると公約した。これがどこまで徹底できるのかには疑問もあり、また国内の労働力需要との兼ね合いもあろう。

 第二に、治安の悪化の原因は、移民と共に犯罪組織が流入したためであるとも言われているが、実際の犯罪発生率よりも、国民の間での犯罪に対する恐怖感が極めて強く、世界で6位とも言われている。カストは、刑罰の強化、刑務所の増設、軍の動員等の施策を公約しているが、犯罪が生ずる社会的背景への対応や犯罪者の社会復帰等のより幅広い対応が必要であろう。

 第三に、経済政策では、徹底的な市場原理主義に基づき、規制緩和、企業課税の引き下げ、税制の簡素化、年間予算の7%相当の歳出削減などを約束し、経済を活性化して4%の年間成長を図るとしている。基本的には現政権の社会的公正の重視から、民間セクター活性化による経済成長優先の政策転換であるが、過度な財政緊縮の経済成長への悪影響を懸念する向きもある。

 また、ボリッチ政権を誕生させた若者層を中心とする社会的不平等や格差に対する不満が解決しているわけでもなく、カストが社会的価値観の問題で極右的な主張を強めたり、経済的な活性化が生活レベルで実感されない場合には、有権者の支持を失い、民意は再び左に振れていくことになろう。


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