2026年1月10日(土)

Wedge OPINION

2026年1月7日

閉塞感打破に必要な
開拓者精神

 「石油報国」を志した山下は、独自の情報網を駆使し、サウジアラビアとクウェートが欧米石油メジャーの支配から脱却し、新たな協力相手を模索していることをいち早くつかんだ。そして両政府との交渉に乗り込み、粘り強く信頼関係を築き上げた末、57年にペルシャ湾海底油田の採掘利権を獲得するに至った。それは国家プロジェクト級の歴史的偉業でありながら、まぎれもなく裸一貫の個人による挑戦だった。

 にもかかわらず、冒頭にも触れた通り、その偉業を知る人は決して多くない。66年生まれの私は、辛うじて知る世代であるが、それは『週刊ダイヤモンド』記者として企業情報や経営史に触れる環境にいたからでもある。もっとも、私自身も長らくその存在を忘れていた。

 私が改めて山下に注目したのは2019年のことだ。当時、創刊106年に及ぶ『ダイヤモンド』誌の古い記事を解説付きで紹介する連載を開始した。その中で、山下が自らその半生を語った1964年5月11日号のインタビュー記事に出合った。本人の口から発せられるエピソードの数々と、その破格のスケールに衝撃を受けたのである。

 一方で、私は『ダイヤモンド・オンライン』と『週刊ダイヤモンド』の編集長の任から離れた後、2022~24年にかけて出版とはまったく畑違いのスタートアップ企業に転身した。

 スタートアップとは、革新的な技術や新しいビジネスモデルを基盤に、短期間での急成長と新市場創出を目指す〝挑戦者〟である。それまで若い起業家を取材する機会は多く、自分自身も「新しい領域への挑戦」を体現したいとの思いから、この世界へ飛び込んだ。

 その後、2年を経て古巣に呼び戻されることになったが、日々「挑戦」という言葉が飛び交う環境で働いた体験は、前例や慣習に縛られない生き方の価値を身体で理解する契機となった。閉塞感が常態化する現代の日本だからこそ、開拓者精神が欠かせないと痛感したのである。

 そこで思い出したのが山下太郎だった。

 若き頃から「誰も成し遂げていないことを実現する人生」を誓い、それを現実にした生き様は、「もっと大胆であっていい」と次世代へ訴えかける。彼の志は、個人の出世や事業規模といった尺度ではなく、常に国家という大きな単位に置かれていた。

 挑戦するためには自身に無意識で掛けている「リミッター」を外す必要がある。山下が「国を動かし、アラビアまで乗り込み、石油を掘る」という途方もない発想を生み出せたのは、常識の外側に自分を送り出す覚悟があったからだ。

 しかし現代の若い経営者たちと接していると、同時代・同世代だけを基準にし、見える範囲の成功に満足してしまっているように映ることもあった。比較する軸が狭ければ、視野も志も自然と縮んでいく。


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