2026年2月2日(月)

Wedge REPORT

2026年2月2日

いまだ続く鳥インフルエンザの脅威

 鳥インフルエンザが日本で79年ぶりに発生したのは、04年1月。当時、ある大手養鶏企業のオーナーは、筆者に「赤い小便が出るんですよ。自分のところで鳥インフルエンザが出たらと考えると夜も寝られない。経営再建なんて不可能だ」と語った。この言葉は、未知のウイルスに対する生産者の恐怖、苦悩を代弁するもので、実際、この年に国内3例目の発生農場となった京都府の農産社長は将来を悲観して、夫人とともに自ら命を絶っている。

 その後、被害に遭った生産者に対する補償制度が整備され、時間の経過とともに消費者が過度な恐怖心を抱かなくなり、鶏卵、鶏肉の生産と流通は一時的な混乱を脱した。それでも、目に見えないウイルスとの闘いは終わっていない。

 農場の飼養衛生管理、バイオセキュリティはこの20年ほどで格段に向上したものの、予防効果の高いワクチンが存在しないため、万全の対策を講じても感染を100%防御できるわけではない。野生の鳥類、小型の哺乳動物、粉塵や風、人・物の動きなど何らかの理由で一定量以上のウイルスが鶏舎内に侵入すれば、それまでである。

「エッグショック」が残したもの

 事態がさらに悪化したのは「エッグショック」が発生した22~23年シーズンである。過去最速の10月28日に1例目が確認されて以来、23年4月7日時点で26道県84事例に及び、約1771万羽が殺処分の対象となった。

 このうち、採卵鶏の殺処分対象羽数は国内の成鶏めす飼養羽数(1億3729万羽)の12%に相当する約1654万羽に達している。かつてない大量殺処分が行われた結果、23年の鶏卵生産量は243万トンと過去10年間で最低の水準に落ち込んだ。

養鶏業者は厳しい経営環境にさらされ続けている(poco_bw/gettyimages)

 供給量の大幅な減少に加え、飼料価格の高止まり、水道光熱費や運賃、設備費、人件費の高騰なども影響して、卸売価格は23年上半期に指標となるJA全農たまごMサイズ基準値で1キログラム当たり350円まで上昇。小売価格も10個入りで300円を超える水準となった。

 時間帯によってはスーパーマーケットの棚から卵が消える、外食産業や食品加工メーカーが必要な卵を確保できない不測の事態を招来したのである。

 かつては「物価の優等生」といわれた卵が今や物価高騰のシンボルであるかのように連日メディアが報じた。大手液卵加工メーカーは苦肉の策として、当時、鳥インフルエンザの影響をまだ受けていなかったブラジルから殻付き卵を輸入、国産の不足分を一部代替する動きに出たものの、その価格はかつての安価な輸入原料のイメージからはかけ離れた水準となり、円安の進行も相まって高値推移を起こした。

 23年下半期に入ると、鶏卵の国内生産量は徐々に回復に向かう一方、エッグショックで落ち込んだ需要の回復が遅れたことから需給が緩和し、卸売価格は24年1月に1キログラム当たり180円まで下落。上半期はその後も低調に推移し、夏場の暑熱被害の影響などから卸売価格は上昇したものの、同年8月までに217円と、前年同時期の282円よりも低かった。


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