2026年2月27日(金)

「最後の暗黒大陸」物流の〝今〟

2026年2月27日

「自動化より人のほうが速い」日本の現実

 海外の巨大港湾が無人化へ進む中、日本の港湾が非効率かといえば、そうではない。

 世界銀行とS&Pグローバルが公表するコンテナポートパフォーマンスインデックス(CPPI)によれば、横浜港は大規模な全面自動化を進めていないにもかかわらず、効率性は世界上位水準にある。数字が示すとおり、日本の港湾は「遅れている」のではなく、異なる強みの上に立っている。

 理由は明確だ。日本の港湾技能者の技術水準と、長年にわたって現場で積み重ねられてきたノウハウが、際立って高い次元で融合しているからである。

 その象徴が、ガントリークレーンの運転士——現場で「ガンマン」と呼ばれる熟練技能者たちの存在だ。

 彼らが立つのは、地上約50メートル、ビルの15階に相当する高さの運転席である。そこから眼下のコンテナ船を見下ろし、風に煽られて巨大な振り子のように揺れる数十トンのコンテナを、数センチ単位の精度で操る。船内の「セルガイド」と呼ばれる狭い枠の中へ、空中の針穴を通すような正確さでコンテナを次々と積み上げていく様は、まさに職人芸と呼べる熟練した技術だ。

 その処理能力は数字にも表れている。海外主要港のオペレーターが1時間あたり25〜30個程度を処理するのに対し、日本のトップクラスのガンマンは30〜35個、時にはそれ以上をこなす。自動化設備の導入実証で「熟練者の手作業の方が速い」との結果が出た例があるのも、こうした現実があってのことだ。

 風向き、揺れ、荷重バランスを瞬時に読み、最短動線で処理する判断力は、現段階のアルゴリズムでは容易に再現できない。数値化しにくい暗黙知の厚みこそが、日本港湾の効率性を支えてきた本質である。

 しかし、この強みは永続しない。40年までに担い手が約2割以上減少する中、ガンマンが体得した技能と判断力を次世代へ引き継ぐ仕組みがなければ、強みは失われていく。属人的な暗黙知に依存する構造は、もはや持続可能ではない。

 だからといって、海外モデルの単純な模倣が答えではない。日本が取るべき道は、ガンマンをはじめとする港湾技能者たちが積み上げてきたノウハウを徹底的にデータ化し、AIに実装することである。

 国土交通省はすでに「熟練技能者の荷役ノウハウ継承・最大化実証事業」を進めている。熟練者の視線移動、操作タイミング、判断基準を分析し、制御アルゴリズムへ反映させる試みだ。ガンマンの技をアルゴリズムに刻む——それは、人を排除するための自動化ではなく、人の知を永続させるための自動化である。それが、日本型港湾モデルの核心となる。

地政学リスクという揺らぐ前提

 世界は自動化を標準とする段階へ進んだ。その中心に君臨するのが、中国の国有企業・上海振華重工(ZPMC)である。世界のコンテナクレーン市場で7割超のシェアを握り、米国港湾でも約8割を占めるとされる同社は、価格と供給力で市場を席巻してきた。

 表面的に見れば、日本は後れを取っている。しかし、世界の港湾自動化を支えてきた大前提が、今揺らいでいる。

 ZPMCの圧倒的シェアに対し、安全保障上の重大な懸念が浮上したのだ。米国で契約に明示されていない通信機能の存在が指摘され、有事の遠隔停止や情報収集の可能性を巡る議論は「トロイの木馬」という強い比喩で語られるに至っている。


新着記事

»もっと見る