二次創作ガイドラインの制定とファン心理
――近年、任天堂や集英社、カラー*6など大手企業による二次創作ガイドラインの制定が進んでいます。この動きの背景と法的意義についてどのようにお考えでしょうか?
ガイドライン制定の背景には、これまで「暗黙の了解」や「お目こぼし」で成り立ってきた二次創作を、よりオープンかつ明確なルールの下で楽しんでもらおうという意図を感じます。
権利者側から見ると、「常識的なファン活動に対して権利行使までする意図はなくとも、二次創作に対して正式な許諾は出しにくい」といった事情はあるでしょう。多忙な作家が個別の問い合わせに対して一つひとつ許諾を判断するのもおよそ現実的ではありません。
その点、ガイドラインという形であれば、一つひとつの二次創作に個別の許諾まで与えない一方で、許容する範囲について一定の線引きを示すことができます。ファン側にとっても二次創作がやりやすくなり、言わばWin-Winの関係を築けると言えます。
――たしかに、ここまでOKと示してくれるのはありがたいですね。
法的に考えると、ガイドラインの遵守は「権利者からの許諾を得ている」ことを意味します。つまり、ガイドラインを守っている限り、たとえ原作キャラクターの絵柄を使用していても著作権侵害にはならないということです。
一方、ガイドラインに違反した場合は、許諾の範囲を超えているため、著作権侵害となる可能性があります。ただし、最初の話に戻りますが、そもそも絵柄などが似ていなければ著作権侵害にならないため、ガイドライン違反だからといって直ちに著作権侵害というわけではありません。
つまり、著作権侵害の判断には、まず「絵柄やストーリーなど表現が類似しているか」という著作権法の一般的基準で判断し、類似していると判断された場合に「ガイドラインによる許諾の範囲内か」という判断がされるのです。そのため、ガイドラインからは逸脱しているけれど、そもそも著作権侵害ではないという場面は生じ得るのです。
また、ガイドラインの内容は権利者が自由に決められます。例えば、「キャラクター同士のBL表現を禁止する」「AI生成は表示が必要」などのルールを設けることも可能です。ただし、そうしたルールが厳しすぎるとファン活動が盛り上がらなくなってしまう可能性はあり、線引きが難しいですね。
――ファン文化を広めたい一方で、原作者の意向もありますもんね。こういった流れは海外でも一般的ですか?参考になればと思ったのですが。
興味深いのは、日本と米国を中心とする海外ではファンの反応に違いがあることです。日本では公式のガイドラインに対して「お墨付きを与えてくれてありがとう」というポジティブな反応が多いように思います。これに対し、海外では「なぜ二次創作を制限するのか」という反発が起きることがあります。
例えば『スタートレック*7』のファン作品に対して、「制作が許されるのは30分以内の動画」「ドラッグ、アルコール、たばこなどの描写禁止」というガイドラインが示された際には、海外ファンから表現活動の制約だとする反発がありました。
米国には「フェアユース*8」という制度があり、批判的なパロディ利用を含め、二次創作が元々法的に認められる可能性があるという認識があることも影響していると考えられます。
日本では元々グレーゾーン、または著作権侵害となる活動に「ここまでならOK」というお墨付き、許諾が与えられることをポジティブに捉える傾向があるのに対し、米国では「本来は自由なはずの二次創作を制限される」という印象を持つのかもしれません。
*6 カラー アニメ「エヴァンゲリオン」シリーズで知られる制作会社。2020年に「エヴァンゲリオン」シリーズのファン創作物に関するガイドラインを公開し、二次創作に一定の基準を示した。
*7 スタートレック 1966年に始まったアメリカのSFフランチャイズ。世界的な人気を誇り、ファンによる二次創作活動も盛んだが、権利者が厳格なガイドラインを設けたことで議論を呼んだ。
*8 フェアユース アメリカ著作権法の規定で、批評・研究・教育などの目的であれば著作権者の許諾なく著作物を利用できる制度。「利用の目的と性格」「著作物の性質」「利用された量と重要性」「市場への影響」の4要素で判断される。
