2026年4月8日(水)

日本の縮充化

2026年4月8日

目が覚めたおじいさんの言葉

 ついに念願がかなった。しかし、大金を借りて会社を継承するも、毎月の返済で経営は火の車状態。評価の高い飲食店宛に、塩と手紙を同封したレターパックを毎月50件は送ったが、どこもかしこも音沙汰なし。「だったら直接」と、塩をかばんに詰められるだけ詰めて東京へ向かい、宿も取らずに5日間、100軒以上の店を回った。それでも採用してくれる店は1軒もなかった。

 幸運が訪れたのは23年のこと。沖縄本島の飲食店で偶然横に座った三ツ星レストランのシェフが、「明日からこの塩に切り替える」と快諾してくれたのだ。シェフは言った。

 「僕が大事にしているのは、塩をつくる人の生きざまだ。あなたは島を背負う人になる。塩で人生を変える人になる。僕は、『あなた』という人の価値を買ったんだ」

 それ以降、高級店からの問い合わせが殺到するようになった。しかし、杉本さんはあることに気付く。

 「高級店には採用されても、島の人は全然買ってくれなかったんです。島の人に愛されなきゃ、意味がない」

 ある時、島内の行事に参加すると、おじいさんがこう言った。

 「そこにあるコップ、持ってみろ。君の手の指が全部、親指だったら、持てると思うか?」。さっぱり意味が分からない杉本さんにおじいさんはこう続けた。「自分の好きな人とだけ、『親指』とだけ付き合っているようでは、何も掴むことはできないよ」。

 目が覚めた。島のことを、何も分かっていなかった。考えを改め、今では全ての行事に参加し、店にも島の人が通うようになってくれた。

 「塩を通じて『島』を伝える。島ごと売る。それが僕の恩返しです」

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Wedge 2026年4月号より
縮む地方 膨らむ東京 日本の縮充化こうすれば実現できる
縮む地方 膨らむ東京 日本の縮充化こうすれば実現できる

「日本列島を、強く豊かに。」を掲げ、先の衆院選で高市早苗首相率いる自民党は圧勝した。信任を得たからにはその実現に向け、全力を挙げるべきであることは論を俟たない。一方で、見過ごしてはならないことがある。東京を筆頭に都市は膨らみ続ける一方で、地方では縮小が先行している現実だ。日本には、実に「多様」な地方があり、そこにしかない「営み」がある。その価値の上に、この国家が成り立っていることを忘れるべきではない。歴史的転換点にある中、「豊かさとは何か」を再定義し、「縮小」しながらも「充実」させる〝縮充化〟の実現に向けて新たな一歩を踏み出す時だ。


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