2026年5月11日(月)

Wedge REPORT

2026年5月11日

数字が語る「国内観光再編」

 足元の旅行動向を見ると、日本人の旅行意欲そのものは依然として強い。JTBの推計によれば、今年のゴールデンウィーク(4月下旬〜5月上旬)の国内旅行者数は約2300万人規模と、ほぼコロナ前の水準に回復している。一方で、日本人の海外旅行者は50万人台にとどまり、旅行市場の中心が国内にある構図は変わっていない。

 インバウンドについては、GW期間に特化した統計は存在しないが、訪日客はこの時期に集中するわけではない。そのため、同期間の訪日客数は150万~200万人規模の一部にとどまると推計される。GWは年間のごく一部(3.5%)の期間にすぎないが、旅行需要の6%前後が集中するという季節構造自体は大きく変わっていない。

 しかし、重要なのは人数ではない。消費の中身が変わっていることである。

 現在の国内旅行で顕著なのは、「安・近・短」志向の強まりである。旅行日数は短く、移動距離は近く、支出は抑制される。1人当たりの旅行費用は国内で4万円前後と抑えられる一方、海外旅行は30万円近い水準に達している。

 背景にあるのは、円安とエネルギー価格の上昇である。燃油サーチャージは高止まりし、長距離路線では往復で10万円を超えるケースも珍しくない。家族で海外旅行に出かければ総額100万円規模に達する一方、国内であればその数分の一で収まる。このコスト差は極めて大きい。

 ただし、ここで起きているのは単純な「代替」ではない。海外に行けないから国内に行くという受動的な選択ではなく、限られた予算の中で満足度を最大化するために、旅行そのものの設計を見直す動きが広がっている。日帰りや1泊2日へのシフト、近距離移動、帰省と観光の組み合わせ、混雑を避けた分散型の行動など、旅行はより「選び、組み立てるもの」へと変わりつつある。

 さらに見逃せないのは、国内旅行も決して安くはないという現実である。宿泊料金はコロナ前に比べて上昇し、都市部や人気観光地では繁忙期に1泊1万5000円から2万円台が一般的になっている。

 旅行者は今、「海外は高すぎるが、国内も安くはない」という二重の制約の中にいる。その結果、意思決定の軸は大きく変わった。

 もはや「海外か国内か」という二択ではない。同じ予算を使うなら、どこでどのような時間を過ごせば最も満足できるか。旅行は、場所を選ぶ行為から、時間の使い方を設計する行為へと変化しているのである。

高齢化がもたらす国内旅行需要の変化

 国内観光を考える上で、避けて通れない論点がある。旅行者の年齢構成である。現在の国内旅行は、少なからず高齢層に支えられている。時間的余裕があり、宿泊を伴う旅行にも慣れているこの世代は、温泉や周遊、団体旅行といった従来型の観光スタイルと親和性が高い。

 一方で、若年層の行動は大きく異なる。若者は決して移動していないわけではない。むしろ活発に動いている。ただし、その目的が変わっている。

 ライブやイベントへの遠征、いわゆる「推し活」、サウナやアウトドア、カフェ巡りや街歩きなど、テーマや体験を起点とした短時間の移動が中心である。つまり、若者は「旅行しない」のではない。従来の観光産業や統計が想定してきた「旅行」とは異なる形で動いているのである。


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