2026年5月19日(火)

食の「危険」情報の真実

2026年5月19日

 ゲノム編集技術とは、生命の設計図といわれるDNAの狙った場所を切断する技術だ。元通りに修復する能力を生物は備えているが、繰り返し、繰り返しDNAの同じ場所を切られ、修復していると、何万回か、何十万回に1度、修復ミスが起こる。

 ゲノム編集マダイでは、筋肉の発達を抑制する遺伝子が修復ミスで壊され(ノックアウト)、肉厚になっている。トラフグの場合は成長を抑える遺伝子がノックアウトされて成長が早くなって早く出荷できる。ヒラメも同様の仕組みで成長が早くなっている。

 これらの魚は飼料の効率が高くなったという(同じ量の飼料でより成長する)。漁業事業者にとって、飼料のコストが小さくて済み、早く出荷できるメリットは大きい。これは、育種にかかる時間が短いということであり、海の環境保全に役立ち、漁業従事者の労働の安全性を高めるなど、利点がみえてくる。

 しかし、ゲノム編集の研究をしている京都大学大学院農学研究科の木下政人准教授は、「対象となる魚は、養殖技術が確立されていなければならない」とネックを挙げる。先述のように、完全養殖の仕組みが整った魚は一部に限られる。

自然とともに生きる意識を

 海の環境保全と水産物の安定供給、そして私たちの健康の維持・増進のために大いに期待される魚の養殖であるが、設備投資やラニングコストが大きいこと、餌の安定的な確保とそのコスト、自然災害のリスクにさらされていること、資金の安定的調達という手強い課題がある。それらに課題に対して、適した漁場を選定したり、成長度合いに合わせた出荷時期を判定したり、漁場を監視したり、赤潮発生を予測できたりするようなスマート水産業(養殖DX)の導入も欠かせない。

 先述の「MSC消費者調査レポート」では、この2年間で環境への配慮から食生活を変えたとする消費者の割合について、日本が19%と最下位だった。日本人は魚を食べる機会が多いにも関わらず、環境への配慮にいたっていない。

 ゲノム編集をはじめとする魚の養殖技術の開発やスマート水産業だけでなく、それに呼応する消費者の意識も重要ではないか。木下准教授も「魚に関しては、先端技術を導入したから安くなるというような、価格だけを考えてはいけない」と語っている。

 庶民の食卓において魚食の高価格は痛いが、健康のために欠かせない魚食を続けるためには、価格に海の環境保全の費用も含まれているという考え方が必要かもしれない。

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