もし人生が鉱山なら
帰り際、私は井上さんの手を握った。骨ばった手だった。しかしその手には、昭和を生き抜いた男の歴史が刻まれていた。マッカーサーは言った。
「老兵は死なず、ただ消え去るのみ」
だが、私はそうは思わない。老兵は消えない。その人が生きた物語は残る。井上さんが歩いた道。私が歩いている道。それは誰かの心に受け継がれていく。もし人生が鉱山なら、井上さんは自らの鉱脈を掘り尽くした男だった。
私はまだ掘っている。違いはそれだけなのかもしれない。老人ホームを出ると、夕暮れの風が静かに吹いていた。その風は良寛のように穏やかであり、一休のように自由だった。
私は空を見上げた。
そして、もう少しだけ、この世という鉱山を掘り続けてみようと思ったのである。
