沖縄・フィリピンへと広がる地政学的戦場
中国が高市氏に対して仕掛けたプロパガンダキャンペーンには、インド太平洋地域における地政学的駆け引きをめぐる論争、特に日本と沖縄・フィリピンとの関係に関する議論も織り込まれていた。この議論において、中国は一貫した主張を続け、日本が意図的に米国に媚びへつらい、フィリピンと共に中国に対抗する枠組みを形成し、地域の平和を破壊していると主張している。
Weiboプラットフォームの投稿データやX上の中国外交官の発言を検証すると、高市氏の「台湾有事」発言以降、沖縄の地位問題が、中国の提起する議題の一つとなったことがわかる。実際、中国の学界では2010年代初頭から、日本の沖縄に対する主権に疑問を呈する声が徐々に高まっていた。
中国当局が最近、日本の第二次世界大戦史について言及する論述では、日本による台湾植民地支配の歴史を再述するだけでなく、中国と沖縄の淵源、そして「日本軍国主義による沖縄の人々への偏見や残虐行為」も強調している。例えば、薛剣氏は25年9月に「軍国主義の旧日本軍は、他国に対して度重なる虐殺や強制追放を行っただけでなく、沖縄戦においては沖縄の民間人に対しても刃を向けた」と投稿している。高市氏の発言後、中国は沖縄問題を、日本の台湾支持への対抗措置として提起していると考えられる。
同年11月1日から12月6日までの「高市早苗」に関連する1万5241件のWeiboへの投稿を分析したところ、454件が日本の沖縄に対する主権問題や、沖縄の地方指導者および住民が抱く日本に対する不満に言及していた。沖縄の主権に関しては、北京日報、北京晩報、環球日報などの中国国営メディアは、沖縄はかつて中国の属国であったという歴史を強調しつつ、日本によって不法に占領されたと主張している。また、第二次世界大戦後、沖縄は米国の信託統治下にあったものの、実際には主権が未定であり、沖縄住民による自決に委ねるべきであるとしている。
これらの微博上の公式な論調は、過去10年にわたる「沖縄主権(地位)未定論」を踏襲しており、カイロ宣言やポツダム宣言には沖縄が日本の領土範囲に含まれていないことを強調している。サンフランシスコ平和条約や日米間の沖縄返還協定といった他の国際条約や協定も、沖縄の主権帰属問題を解決していないとしている。
また、これらの投稿は、日本が台湾海峡の紛争に巻き込まれることに対する沖縄の反戦派の不安も強調している。なぜなら、一旦米国が台湾海峡の紛争に介入し、日本の自衛隊が参加すれば、沖縄は最前線の戦場となってしまうからだ。中国の論調では、沖縄は日米軍事同盟と中国の地政学的レッドラインの間に挟まれた犠牲者であり、現地住民は地政学的衝突の犠牲となることに強く反対していると位置付けられている。
日本の高市早苗首相に対する女性蔑視攻撃
今回、中国が高市氏の言動に対して展開したプロパガンダにおいて、最も特徴的な点は、高市氏個人の女性としての言動、特に他国の指導者とのやり取りを厳しく論じていることだ。性差別的な批判を展開しているのは、主に時事評論のインフルエンサー(大V)や個人アカウントである。
例えば、元『環球時報』編集長の胡錫進氏は、11月1日に高市氏と林信義氏がAPECの場で会談した際、高市氏の性別を問題視し、彼女と日本を米国の「東アジアの側室」と表現し、台湾と密通していると示唆した。また、他のWeiboアカウントは、日本と米国の関係を「極端な従属」、「米国への媚び」、さらには「品位を欠く」と表現している。
高市氏が他の国家元首に対して示した友好的な礼儀作法についても、過剰に拡大解釈され、わざと媚びているかのように拡散された。台湾には親中派のネットインフルエンサーやコメンテーターもおり、高市の外交スタイルを「ママさん外交」と称した。
これが「台海網」といった台湾向け宣伝専門サイトに引用され、高市氏が他の首脳と会談する映像が編集され、再びWeiboのトレンドキーワードとなった。
資料協力:台湾民主実験室(Doublethink Lab)提供のFIMI Intelligence Dashboard
日本語版監修:野嶋剛


