ドクターイエローの再生アルミでブックケースを作る
北村さんはいま「シン町工場ゼミ」と銘打って、東小松川工場会のメンバーを中心にした勉強会を主宰している。ゼミの目的は、後継者の育成、技術者の育成、そして横のつながりを深めることである。
北村さんが最終形態として思い描いているのは、東小松川工場会がひとつの会社組織のようになって、営業力のある人材が仕事を取ってきては、それぞれ得意分野の異なるメンバーに最適な仕事の分配していく仕組みの確立だ。
「営業ができていなくて廃業しちゃう会社が多いわけですが、日本企業の99%が中小零細企業なわけですよ。もしも、中小零細がなくなったらどうなるのか。僕は、日本をものづくりのできない国にはしたくないんです」
そんな北村さんの元に、大仕事の依頼が舞い込んだのは2025年7月のことだった。
鉄道関係のノベルティーを手掛けている旧知の会社から、2025年1月に現役引退した新幹線・923形ドクターイエロー(T4)の写真集(『ありがとうT4 JR東海 公式923形ドクターイエロー引退記念写真集』撮影・村上悠太)の特装版のアルミケースを作れないかと打診があったのだ。
このアルミケースは、引退後に解体された実物のドクターイエローT4編成のアルミボディーから抽出した再生アルミを材料にし、ケースの内張りにはN700S新幹線のグリーン車のシートと同じ生地を使い、さらに表面には新幹線のインダストリアルデザイナーである福田哲夫さんによるT4のイラストとシリアルナンバーが刻印される。
特装版の印刷部数はT4の形式番号に因んで、わずかに923冊。まさに鉄道ファン垂涎の1冊であり、価格も通常版とは桁が違う。
「こういう、目に見えて世の中に出ていく、『あれは俺が作ったんだぜ』って言える仕事は楽しいですよね。中小企業の魅力を広めるためにも、いい機会だと思いました」
さっそく北村さんは、どの工程をどの会社に頼めばアルミケースを作れるか、検討を開始した。工程は①コの字型をしたアルミのチャネル材(打ち出し材)の切断、②フラットバー(側面部分のアルミの板)の溶接、③角と辺の面取り、④アルマイト加工(表面処理)、⑤レーザーによるイラストとシリアルナンバーの彫刻と5つに分解できたが、各工程とも一筋縄ではいかない難しさが伴った。
「たとえば、アルミを垂直に切るだけでも難しくて、普通は断面が斜めになっちゃうわけですよ」
それでは、写真集のケースとしては使えない。
「仲間の会社(優成)が垂直に切れる機械を持っていたんで、切断はそこに頼んで溶接もお願いしましたが、溶接は手間がかかるので他にも3社(ヨコヤマ工業、土筆鋼業、クリエイティブワークス)に依頼しています。溶接も難しくて、どうしても表に跡が出ちゃうので、溶接と接着剤を組み合わることでなんとかクリアしました」
