しかし、動画の内容以上に素晴らしいのは、職人どうしが技術を「共有」すること自体ではないだろうか。
なぜなら、一般的に職人は自分の技を人に教えたがらないものだからだ。直接の後輩にさえ「見て覚えろ」と言うのが普通。まして、他社の社員に技術を教えるなんてもっての外だ。
タブーを打ち破り新たな生態系を築く
しかし、と北村さんは言うのである。
「そういう考え方をするのは、上の世代の人たちですね。おらが村の村長さんが多くて、村を守るのに必死だから、他社の職人に技術を教えるなんてとんでもないって言いますよね。でも、若い世代は技術をオープンにして共有することができるんですよ。今回、このドクターイエローのプロジェクトに関わってくれた職人さんはみんな、僕と同じか僕より下の世代だから、動画で治具の作り方まで共有することができたんです」
技術の共有という職人界のタブーが明確に打ち破られたことによって、東小松川工場会の面々が連携しながらひとつのものを作り上げていくという北村さんの構想が、一歩、実現に近づいたのかもしれない。アメリカのシリコンバレーがITベンチャー育成の生態系なら、東京都江戸川区は近い将来、中小企業が共生しながら日本のものづくりを支えていく生態系として機能するようになるのではないか。
北村さんは、ドクターイエローのアルミケースを手にした人に何を伝えたいだろう。
「職人がひとつひとつ手で仕上げたものだから、溶接の跡も、面取りのRも均一ではありません。そこに東京の職人たちの手仕事が生きているということ、だからこそこの世に2つとして同じものはないということを、ぜひ、感じ取ってほしいですね」
技術の独占や秘匿ではなく、オープンにし共有することによって日本のものづくりは蘇生する。北村さんの言葉には、そんな未来を予感させる力があった。

