2026年6月11日(木)

Wedge REPORT

2026年6月11日

 したがって、広く恩恵が及ぶ一方で、再分配の精度は高くない。飲食料品減税は、選別型給付に比べて迅速でわかりやすいが、「必要な人に厚く」ではなく「広く薄く」支える政策だと位置づけるのが適切だろう。

日本経済への短期効果と限界

 減税の効果としては、短期的には、飲食料品減税は家計の可処分所得を押し上げ、物価高への不安をやわらげる。毎日の買い物で価格低下を実感しやすいため、消費者心理の改善にもつながりうる。また、総務省「消費者物価指数(CPI)」では食料のウェイトが大きく、減税が価格に反映されれば、統計上のインフレ率を一定程度押し下げる方向に働く。

 ただし、その景気刺激効果は過大評価すべきではない。食品は典型的な必需品であり、価格が下がっても需要量が大きく増えるわけではない。自動車や住宅のような耐久財と異なり、人が食べる量には上限があるからだ。ゆえに、飲食料品減税はマクロ経済を強く押し上げる成長政策というより、家計の購買力低下を一時的に緩和する緩衝材と捉えるべきである。

外食・サービス産業に起きること

 飲食料品減税は家計には追い風でも、産業別には中立ではない。相対的に有利になるのは、スーパー、コンビニ、食品小売、冷凍食品、総菜などの「モノとして売られる食」であり、不利になりうるのは、レストラン、居酒屋、カフェ、旅館の食事などサービスとして提供される食である。

 日本では共働き世帯の増加や単身・高齢世帯の拡大を背景に、スーパーの総菜、冷凍食品、コンビニ弁当、ミールキットなどの中食市場が拡大してきた。農林水産省や業界統計でも、中食の利用増加は一貫した傾向として確認される。

(shironagasukujira/gettyimages)

 外食と中食はすでに一定の代替関係にあり、飲食料品減税は単に「自炊」を後押しするのではない。むしろ、時間を買う消費を相対的に支援する政策になりうる。

 日本フードサービス協会や農林水産省の資料を見ても、外食産業は回復しつつある一方、価格改定の影響を強く受けており、需要は必ずしも盤石ではない。ここに税率差の拡大が加われば、日常利用の外食ほど相対的な割高感が出やすい。

 人々がすぐ外食をやめるわけではないし、外食には接客、空間、会話、非日常性という独自の価値がある。だが、価格感応的な層ほど、中食へのシフトが起きやすいのも事実である。

 減税の本質は、家計を助けることと引き換えに、モノ消費を相対的に優遇し、サービス消費を相対的に不利にする点にある。サービス業が国内総生産(GDP)の大宗を占める日本において、この構造は軽くない。


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