代替燃料となり得る利点
では、現在、海運船舶はどんな燃料を使っているのか。日本海事協会によると、世界で航行する5000トン以上の大型船舶の燃料の約9割は重油だ。重油は、原油からガソリンや灯油、軽油などを抽出した後に残る成分。粘性が強く、発熱量に優れ、価格も安いが、CO2の発生量が多い弱みをもつ。
脱炭素化の潮流の中で、重油よりもCO2の発生量が少ない液化天然ガス(LNG)を使う船舶が増えているものの、まだ燃料全体の5%程度に過ぎない。このほか、低炭素の代替燃料として、メタノールや液化石油ガス(LPG)もあるが、普及度は低い。燃焼時にはCO2が発生しないアンモニアや水素を使う船舶はまだ研究開発段階だ。
そうした中で注目されているのが低炭素燃料のエタノールというわけだ。エタノールなら、すでに世界の貿易で流通している実績があり、国から国へ供給するための港湾インフラ基盤ができている。しかもタンクや配管は他の燃料と共有可能だ。その上、すでに船舶の燃料として使われているメタノールとは、同じアルコール燃料のために互換性があり、メタノールの代替燃料になりうる利点がある。
米国の「再生可能燃料協会」(RFA)のエドワード・ハバード氏は、「メタノールやLPGなどの代替燃料はまだ全体の0.3%程度だ。エタノールなら、値段も比較的安く、仮に誤って海へ流れ出ても重油と違い、分解されやすく、環境への影響はほとんどない。しかも米国はまだまだエタノールを供給する余力がある」と今後、海運利用へ拡大させていく構えを見せた。
エンジン面からも支障はない
では、巨大な船舶エンジンは本当にエタノールに対応できるのか。船舶用大型エンジンの設計開発で世界2大メーカーと言えば、ドイツのエバレンスとスイスのウインターツール・ガス・アンド・ディーゼル(WinGD)が知られている。
エタノールとエンジンの関係について、エバレンスの米国担当営業ディレクターのエルンスト・ウイルシェ氏は「すでにコンテナ船でエタノール燃料を使って実験したが、エタノールはメタノールと同等の性能を発揮した。エタノールは船の大きさに関係なく、どのエンジンにも対応できる実用化の段階に入った。今後はできる限りエタノールの利用を支援していきたい」と船舶エンジンがエタノールの普及の障壁にはならないと強調した。
ここ数年、エタノールはジェット燃料として飛行機の持続可能な航空燃料(SAF)に利用する試みも見られたが、そのままではSAFとして使えず、ジェット燃料に変換する必要がある。当然、コストは高くなる。
それに比べると、エタノールの海運利用はそのままで利用できる利点がある。海運関係者からは「エタノール需要の将来性は海運の方にある。すでにインフラ設備が世界中にあり、そのまま燃料として使え、しかもグリーンな燃料だ。船舶への利用はブラジルやシンガポールなどでも始まっている」との声を多く聞いた。
エタノールは海運利用に有望な燃料だと感じる。カギを握るのは、エタノールの原料となるトウモロコシの生産性が今後も上昇し続けるかどうかにかかっていると言えそうだ。日本での活用はいまだ進んでいない状態だが、この世界の潮流にどのように対応していくのかを注視したい。
