他方、こうした台湾有事の際の米軍抑止力衰退論に対しては否定的見方もある。リベラルな立場をとるシンクタンクの代表格「ブルッキングズ研究所」は去る6月、「弾薬不足が対中抑止力低減にならない理由」と題する研究報告を公表、反論材料として次のような論拠を挙げている:
「どの国の指導者であれ、台湾進攻のような、場合によっては国家存亡にかかわりかねない危険かつ歴史的な重大な決断を下す際には、弾薬の多不足問題だけが戦況の優劣の判断材料となるわけではない」
「習近平国家主席がもし侵攻の是非を判断するとしたら、たんに弾薬問題のみにとどまらず、米中両超大国が有する『戦略的深み』と『資源基盤』について十分考慮しなければならない」
「台湾侵攻から米中核対立へとエスカレートした場合、核バランス上、米側が圧倒的に有利なだけでなく、仮に核戦争という最悪シナリオを回避できたとしても、対イラン戦争によるホルムズ海峡閉鎖が世界に及ぼしてきた影響とは比較にならない深刻な経済混乱を招来させることを覚悟しなければならなくなる」
認識不足のトランプ大統領
ただ、このような達観した展望は、あくまで台湾有事の際に米側がただちに毅然たる態度で立ち向かうことを前提としたものだ。
ところが、国際世論を無視して強引にウクライナ侵攻に乗り出し、今なおウクライナ人民に甚大な災害をもたらしているロシアのプーチン体制に融和的姿勢を見せ続けてきたトランプ大統領のこれまでの言動を見る限り、彼が台湾防衛にどこまで本腰を入れるかについては、大いなる疑問符がつきまとう。
台湾防衛のみならず、最近は、朝鮮半島有事の際の韓国防衛についても、米韓合同軍事演習の規模大幅縮小を命じる一方、北朝鮮の金正恩総書記との「個人的に親しい関係」を吹聴するなど、関係周辺諸国を困惑させたばかりだ。
トランプ氏は、切迫した米軍弾薬不足問題についてさえ「でたらめな話だ。十分確保できている」と、これを一蹴している。
いつ起こるともわからない台湾危機――最も深刻なのは、世界最強国大統領としてのあきれるほどの認識不足だろう。
