2026年8月26日(水)

日本人が知っておきたい安全保障レッスン

2026年8月26日

積極的平和主義とは何か

 ところで、積極的平和と似たような言葉として、日本政府は「積極的平和主義」を掲げているので、その意味を簡単に解説しておく。

 積極的平和主義は2013年に初めて策定された「国家安全保障戦略」で定式化されたが、端的に言えば、「国際平和に積極的に(proactive)寄与していく」という意味であり、ガルトゥングの「積極的(positive)平和」と直接の関係はない。

 積極的平和主義は平和について他国と連携しながら主体的・能動的に関わっていくという点がポイントだが、私はこれを「一国平和主義」に対置されるものだと捉えている。「世界で紛争が起こっていても自国さえ平和であればいい」「日本は経済に力を入れれば良く、平和は同盟国である米国に任せよう」。戦後直後や冷戦下におけるこうした考えから、「もはや、どの国も一国のみで平和を守ることはできない」という時代認識に改めた上で、日本の安保政策における態度変更を試みるものが積極的平和主義の旗印であったと言える。

平和主義と現実主義は
ゴールを共有している

 本来、「戦争をなくそう」という想い(消極的平和)と「差別や貧困をなくそう」という想い(積極的平和)は両立するのだが、どうして議論が噛み合わない状況になるのだろうか。私なりに整理すると、目的と手段の関係が錯綜している点に原因があると思われる。

広島市の平和記念公園から見える原爆ドーム。「平和」を願う人々が世界中から訪れる(NURPHOTO/GETTYIMAGES)

 まず、積極的平和の目的である構造的暴力の除去にとって、軍隊が必要だという人はおそらくいないだろう。「思いやる心」など小学校の道徳で習うようなものが大事なのであって、軍事力が求められるわけではない。積極的平和の目的と手段については立場を超えた一致が見られると言って良いだろう。

 次に消極的平和の目的である直接的暴力(戦争)の除去にとって、軍隊は必要か。ここは意見が分かれる点だろう。私自身は「必要だ」という立場だが、「軍事より外交」「抑止より話し合い」という意見もある。私にはこの立場を採る人々は積極的平和と消極的平和の両方を「人々が手を取り合い、笑い合うこと」で解決しようとしているように見える。

 このような立場は「平和主義」と呼ばれ、「現実主義」に対置されることが多い。また、平和主義者に対しては「お花畑」「平和ボケ」といった批判が投げかけられることがある。これは最近に限ったことではなく、古くは評論家・福田恒存による『平和論にたいする疑問』(文藝春秋新社、1955年2月)など、戦後10年も経たない時期から見られる現象だ(ただし、昨今のSNS上の罵詈雑言と福田の真摯な批判との違いは指摘しておく)。

 私も消極的平和の達成手段として人々の相互理解だけを掲げるのは不十分だと考えている。しかし、それをもって、平和主義を批判する気持ちにはなれない。なぜならば、「戦争を防ごう」という目的は共通しているからだ。


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