インフレが追い詰める
日本の国家予算と財政
まず直視しなければならないことは、日本の財政状況は、世界一の少子高齢化という人口動態に基づく「構造赤字」であるという現実です。総人口に占める65歳以上の割合は約29・6%(2025年時点)に達しており、これは世界最高です。今後も他国に類を見ない速度で高齢化が進む見通しです。
「そんなこと、言われなくても百も承知だ」といった声が聞こえてきそうですが、では、それは一体どのような社会を意味するのでしょうか。
一言で言えば、年金・介護・(高齢者)医療といった社会保障費が膨らみ続ける一方で、税や社会保険料の担い手である現役世代が減少していく社会です。現行制度のままでは当然、税収も大きく伸び続けることは望み難いです。しかも、後述するように日本は、国際的に見てもマクロ的に中程度の社会保障が施されているのに対して税負担は低く、”中福祉−低負担”と言われている国です。つまり、日本は「社会保障制度を維持・継続することが最も困難な国」に陥っているのです。
しかも、図1を見れば一目瞭然ですが、社会保障費以外の政府支出を見れば、すでに先進国の中でも「小さな政府」になっています。
これに対して、「国の予算は無駄だらけだ。いくらでも削れるはずだ!」といった威勢のよい声が聞こえてきます。
しかし、第二次臨時行政調査会(土光臨調)が切り込み隊長となった”増税なき財政再建”をスローガンに掲げた中曽根康弘政権以降、長らく予算を削り続ける”マイナス・シーリング”などによって、間違いなく日本の歳出は非常に小さなものになってきたのです。
もちろん、国の予算に無駄がないなどとは決して言いません。現役時代も各省庁からの予算要求に対して真に必要なものかを厳しく精査し、歳出を切り詰める努力を長年続けてきましたし、かつて必要だったものも時間とともに必要性が薄れるのは世の常です。
しかし、国家予算の中で、例えば「A・B・Cの予算を削れば継続的に毎年5兆円、10兆円の財源が捻出できる」といった現実的な提案は具体的に聞いたことがありません。
しかも、近年の急速なインフレは二つの点で、この厳しい状況に追い打ちをかけています。
一つは、物価上昇に見合って歳出増圧力がかかることです。一番分かりやすい例は年金の物価スライドでしょう。インフレが起きても年金の支給単価を上げないと年金受給者は困りますから、物価上昇に伴って支給単価が引き上げられます。介護サービスにしても医療サービスにしても、社会保障費は人件費と物件費の塊ですから、物価や賃金の上昇に伴って歳出増圧力がかかります。このことは、文教予算にしても、公共事業予算にしても、防衛費にしても、全てに共通することです。
なお、それ(物価スライド)は最低保証とかではなく、それを基調としつつも、必要な改革によってそこから削減したり、必要な新規施策によって加算されたりするわけです。
ともあれ、インフレが続けば、その分、歳出膨張圧力がかかることは間違いありません。
もう一つは、利払い費の増幅です。長らくのデフレから、ここ数年インフレ局面に移ってきたため、金利を上げないと物価を抑えられなくなってきました。
金利はこの2年半で2.5%上がりました。国債の残高は1100兆円以上ありますが、金利が2%上がっただけで利払い費は20兆円以上も増えます。ただし、国債の満期は一度にやってくるわけではありません。10年弱でおおかたの金利が切り替わるので、じわじわと利払い費が嵩んでいき、これまで毎年7兆~8兆円だった利払い費が、10年後には毎年30兆円にもなることがほぼ確定しています。この先、金利がさらにもう1%上がれば、毎年の利払い費は40兆円にもなります。

